7.

1/1
前へ
/12ページ
次へ

7.

「パパの苗字が問題なのよ」 「僕の苗字?」 「伊部でしょ?」 「紛れもない。僕こそが営業2課の平社員、伊部モトキだ」 「それよ、それ」 「どれだよ」 「伊部、もうマジで最低」 「失礼だな、君は」 「パパとママがいま結婚したら、あたしの名前がどうなると思う?」 「リコちゃんの名前は変わらないよ」 「伊部になるでしょうが」 「まあ、伊部にはなるだろうけれど」 「それが問題なのよ」 「問題?」 「2年待ってほしいの。2年後には、民法が改正されて選択的夫婦別姓制度が導入されるから」 「ちょっと待って、なんでそこまで僕の苗字が嫌なんだい」 「読み上げてみなさいよ、あたしのフルネーム」 「伊部、リコ?」 「もっと早口で!」 「」 「誰が豚やねん!」 「そんなこと、言っていない!」 「このフルネームが理由で、あたしの人生は台無し。ねり消し集めが趣味の小学校時代、よく捕まえてきたハエの羽をもぎ取って遊んだわ。国語辞典だけが友だちだった中学校時代、おすすめは新明解の第四版よ。部屋から一歩も出なくなった高校時代、ネットの世界で強く生きると誓ったわ」 「く、暗い!」 「失礼ね、全部パパのせいなんですけど」  しかし、言われてみればリコちゃんの名前がどうなるかなんて、僕は一度も考えたことなかった。  自分のことで頭がいっぱいで、彼女の将来や人生まで考えられていただろうか。という名前になる。名前は、親が決めるもの。    ……自分では選べない。  確かに環境によっては、いじめの対象になってもおかしくない。子どもというのは、場合によっては自分とは違う特徴や面白いものを見つけ次第、攻撃してしまう習性がある。その矛先がリコちゃんに向かうだなんて……想像もしたくない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加