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 僕は急いで席に戻り、ビデオチャットのスタートボタンをクリックする。まだあまり冷静さは取り戻せず、どこか落ち着かない気分だった。朝礼がビデオチャットでよかった。 「皆さん、おはよう」 「おはようございます」  ビデオチャット上にマリさんの顔が映り、課のメンバーたちが続々と現れる。マリさんはやはりピシッときまったグレースーツ姿。今日もかっこよくて、思わず見惚れてしまう。 「今日のわたしの予定は、11時に赤羽に向かって商談。それからは一度事務所に戻って、午後からは在宅勤務の予定。何かあったらすぐに連絡ください」 「はい」 「かしこまりました」  事務的な連絡、その日の業務予定などを共有し、朝礼が終わる。毎朝、面倒でもあるが、チームとして一体感が生まれるのも事実。マリさんなりのチームに対する気遣いだ。 「それと、伊部くんだけ朝礼後に少し打ち合わせさせて」 「え、僕ですか」 「うん、ちょっとで終わるから」  ……まさか、プロポーズ?!  僕は、ひきだしから現れたリコちゃんの言葉が頭をよぎった。いやいや、まさかな。そんなはずがない。やっぱりどう考えても、このタイミングでのプロポーズはおかしい。 「承知いたしました」 「忙しいのに、ごめんね」 「いえ」
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