31.文化祭の夜 公理智樹と越前梅雨

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 黄昏時。とても嫌な時間帯。よくないものが溢れ出す時間。夜は嫌いだ。  バダム。バスケのボールが弾む音がした。誰かが走るキュという音がする。誰もいないのに。  耳を塞いで体育館の入口まで走る。俺が帰宅部な理由は、幽霊がみえるからだ。学校なんて幽霊の巣窟で、夕方をすぎる蜃気楼みたいにとどんどん湧いてくる。だから部活なんて正気の沙汰じゃない。別の友だちに聞いたら、学校っていうのはそういうのを増幅しやすいらしい。七不思議とか、学校の怪談とか、そういう場所柄ってものが不確かなものに形を与えるんだって。  だからこんなところに、普通は夜はいない。今日の予定も聞いてたのは昼だった。夜だったら引き受けなかった。夜に出るはずのバンド急用ができて俺たちの予定時間と交代するなんて聞いてない。出演が夜になるなんてしってたら引き受けなかったのに。だからそもそも梅雨ちゃんを責めるのはお門違いで、昼ならきっと来てたし。  ああ、また何かが背中を撫でた気がする。それでもたくさん光が点灯されているライブ会場はまだましで、月の上みたく輝くステージの上からは、観客は光に遮られて見えない。観客以外の全部も。  けれども問題は、終わってからだ。 「智樹(ともき)、ヘルプありがとな。俺らこれから打ち上げするけど、お前どうする?」 「えっと……いかない」  これ以上夜にうろつくなんて冗談じゃない。 「そっか。じゃあまた明日な!」  次のバンドが登壇するのと入れ違いに真っ暗なバックヤードにむかっても、梅雨ちゃんはいなかった。  梅雨ちゃんは……きっと間に合わなかったんだろう。体育館の電気は消えている。帰っちゃったのかな。  どうしたらいい。そこかしこに気持ち悪い気配が溢れている。  梅雨ちゃんは俺にとって特別だった。たまに、幽霊を寄せ付けない人間というのがいる。それが梅雨ちゃんだ。梅雨ちゃんがいれば幽霊に襲われずに家に帰れる。そう思ったんだ。それは俺にとってとても切実な話。梅雨ちゃんはいつも帰宅部だし帰り道にあったら一緒に帰ってたし。  梅雨ちゃんにライブ終わったら一緒に帰ろうぜって言ったけど、幽霊が見えるから待ってて欲しいとは言ってない。そもそも幽霊が見えるなんて信じるはずがない。でも言ったほうがよかったんだろうか。1000円でも払って一緒に帰ってほしいって? 馬鹿馬鹿しい。
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