1.夏と秘密基地

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1.夏と秘密基地

 大きなクスノキの下で昔と同じように町を眺めていた。  うだるような暑い夏。木陰の外は太陽の熱線が降り注ぎ、一歩でも出るとだらだらと汗が噴出するけど、この大きなクスノキの枝の上にいる限りは別天地のようだ。この小高い丘の後ろは大きな山に連なり、その涼しい山肌から木々の間を吹き抜けてくる風が背中を少しだけ冷やす。  ここは俺たちのふるさとで、山に囲まれた人口1万人程度の小さな町だった。  小さい頃の記憶といっても小学生のころの記憶と高校のころの記憶ですら大きく異なっている。俺たちが小さいころは田んぼがまだ結構あって、その間にぽつりぽつりと家が立ち並んでいた。コンクリートもアスファルトもあまりなく、都会よりは随分涼しい。  それが原因なのか、いつのまにか避暑地の開発が進んでいき、田んぼは随分小さくなっておしゃれな店やらきれいな家やらがぎしぎしと詰め込まれた箇所が増えていった。  この丘もそれほど高いわけじゃないから遠くまで見通せはしないけど、今も俺の家とか幼馴染の家とか、そういったものは昔と変わらずちょくちょく見えた。そういった昔と同じものはいくつか混在している。例えば丘の下から誰か上がってきたらすぐわかる。なだらかな斜面を幼馴染が手を振ってこちらにやってくるのが見えた。昔も、それから今も。 「お待たせ」 「別に待ってたわけじゃないんだけど」  そう、特に待ち合わせていたわけじゃない。けれどもやっぱり俺たちの足が向くのはこの丘だった。 「それにしても懐かしいな」 「そうだね。どのくらいぶりだろ、20年にはなる?」 「そうかもな」
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