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ホノカも大きくなるにつれ、父親と結婚することは無理だと理解。それでもホノカのパパっ子は相変わらずで、今度はこう言うようになった。
「私、大きくなったらパパみたいな人と結婚するの♡」
娘にこんなふうに言われて、嬉しくない父親がいるだろうか。ホノカの理想の男性像が僕。最高だ。
もちろん、僕もホノカにとって自慢のパパであるために毎日仕事に邁進し、専務にまで上り詰めた。容姿にも気を配り、ジムで体を鍛えることを怠らなかった。
その間にホノカも、順調に成長。有名難関高校に入学し、僕譲りの才覚でバレー部キャプテンを勤め、成績も文句なし。僕と同じ一流大学に進学した。
「ホノカももう大学生なんだし、もし彼氏ができたら紹介してね〜?」
妻がホノカをからかう。するとホノカはハッと鼻で笑った。
「えー?できるかなぁ。パパみたいな人ってなかなかいないんだもん!」
「もー、ホノカったら本当にパパ大好きね!」
ホノカがファザコン?
むしろそれは褒め言葉だ。
父親として、常に尊敬されるように立ち振舞い、娘を慈しんできた。そうすれば、自ずと娘は父親を理想とするものさ。
「アナタの子どもなら、きっと優秀になると思ってたわ。やっぱりそうだったわね。」
ホノカが弁護士として初めて事務所に出勤する日、その背中を見送りながら、妻が言った。
「いやいや、ホノカは僕以上だよ。本当に産んでくれてありがとう。」
子どもがどうしてもほしかった。
なぜなら僕は、僕の優秀な遺伝子を残したかったからだ。それは男としての本能だ。
ホノカは、僕の願いどおりの娘に成長してくれた。
僕の人生は順風満帆だ。
優しくて控えめな妻に、出来た娘。
なにもかも上手くいっている。
だから、都合よく忘れていた。
ほんの些細な、過ちのことなんて。
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