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「パパ、ママ、紹介したい人がいるの。」
ホノカがいつまでも僕の手元にいる、だなんて当然思っちゃいないさ。ホノカだって恋をする。そして結婚をする。
そうなったときは、僕はホノカを快く送り出してやろうと思っていた。もちろん、僕の優秀な遺伝子を受け継いだホノカと結婚するんだから、相手にも同等、もしくはそれ以上のものを求めるが。
「わかったよ。連れてきなさい。」
彼が家に来る前に、彼のスペックについては大方ホノカから確認した。
同じ弁護士事務所に所属していて、同期にあたるらしい。弁護士、いいじゃないか。運動神経も良く、大学生の時はフットサルチームのキャプテンをしていたらしい。文武両道、結構結構。
ただ、紹介するにあたってホノカが気にしているのは、彼の親がどちらもいないことだった。
父親は、彼が生まれた時には既にいなかったらしい。懸命に育ててくれた母親は彼が大学を卒業する間際に病気で亡くなったとのこと。
「ちょっと複雑な家庭だったみたいなんだけど…」
不安げにホノカは言ってきたが、むしろこちらにとっては好都合だった。
これでもし、母親は生きている、と言われた場合は少し悩ましかっただろう。女で一つで育てた息子。べったり、とまではいかなくても、思い入れは強いに違いない。そんなところに嫁に行った場合、姑との関係に悩む可能性もある。『複雑な家庭環境』という言葉の中に、金銭問題も含まれているなら尚更だ。結婚するなり姑ももれなくついてくる、もしくは金の無心をされる、などという苦労を可愛いホノカにはしてほしくない。
母親がすでに死んでいるのは好都合。彼自身が優秀ならなんの問題もない。
「ホノカ、そんなことは気にしないに決まってるじゃないか。ホノカが選んだ相手なんだ。間違いないに決まってるとパパは思ってるよ。」
私がこういうと、ホノカは嬉しそうに笑った。
「パパならきっとそう言ってくれると思ってたわ。」
娘にとって、理想の父親。
僕は満足げに頷いてみせた。
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