64人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんにちは。大下 和春(おおした かずはる)です。」
その男が家に来た日、
顔を見た瞬間、不安がよぎった。
「あら、貴方にちょっと似てない?目元とか!」
ホノカの彼氏である大下くんを和室にお通しし、向かい合って座るなり、妻が僕に言った。大下くんははにかみながら頭を掻く。
「本当ですか?ははっ、嬉しいです、ホノカさんからはいつもの『うちのパパはかっこいいのよ』って教えてもらっていたので…」
ーーーーーいや。
目元だけではない。大下くんは、若い頃の自分にとてもよく似ていた。顔も、体つきも。
……いや、違う。
これは不安からくる思い過ごしだ。
だって“彼女”はあれきり僕に何の連絡もしてこなかったじゃないか。もしそうなら、何万分の1の確率だ?ありえない、そんなはずはない、
いや待ってくれ、“彼女”の苗字って確か…
「和春さんはね、すごくパパと話が合うと思うの!和春さんもパパと同じように高校生まではサッカーをやってて、今もフットサルを続けてるのよ!」
……サッカー。
いや、たまたまだ。サッカーというポピュラーなスポーツをやっていたことが被ったからなんだというんだ。
ああ、まずい、“彼女”の苗字が思い出せない…
「あと、パパと同じで、お酒を飲むと喉がヒリヒリしちゃうから、あんまり飲めないのよ!和春さん、安心してね、うちのパパはお酒を強要したりしないから!」
……酒。
いや、同じように飲めないからなんだと言うんだ。人類は酒が飲めるか飲めないかの2種類しかいないんだから、二分の一の確率で同じだったところで大した確証にはならない。
ああ、それよりも“彼女”の苗字、
“彼女”の苗字……っ、
くそっ、思い出せるわけがない、当然だ。
いつも下の名前で呼んでいた女と、たった一晩ヤッただけなんだから。
最初のコメントを投稿しよう!