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僕の人生は、“ほぼ”順風満帆だった。
そんな中で、子どもがなかなか出来なかったことは想定外のことだった。しかも、原因は僕ではなくて妻。責めたい気持ちをぐっとこらえて、妊活に取り組んだ。
それでもなかなか出来ない子ども。
僕の体は問題ないのに。僕は子どもを作れる体なのに。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
夜、ひっそりと泣く妻の背中をさすりながら労りの言葉をかけるが、内心は不満が蓄積していった。
僕の優秀な遺伝子は、この世に残らず終わってしまうのか?僕は“僕”を何も残さず死んでいくのか?子どもを残すことは、僕がこの世に存在していた証なのに。
子どもが欲しい。
心から子どもが欲しい。
しかし、妻の精神面は限界を迎えていた。
「不妊治療はもうやめよう。君がこれ以上苦しむ姿は見たくない。」
この言葉は、妻に対する諦めでもあった。この女でなければ、僕は普通に子どもを作れたのに。
妻に対する愛情が少しずつ冷めてきた明くる日、魔が差して、他の女性と関係をもってしまった。
違うんだ。本当に、ちょっと魔が差しただけなんだ。妻を裏切ろうなんて思ってない。ただ、ここのところ不妊治療優先で、満足に性欲を満たせる時もなくて、そこに若くて可愛い子が『パパ〜♡』とすり寄って誘ってきたら、抗えないだろう?
その子は、いわゆるパパ活女子だった。向こうから誘ってきたんだ。僕はいつも適切な距離を保って紳士的に接していたのに。
やらかした、そう思って、速攻でアプリの自分のアカウントを消した。連絡も全て遮断した。
罪悪感で、その日の夜は妻をこれでもかと抱いた。
その時出来たのが、『宝乃香』だ。
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