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目の前にいるのは、あのときの子か?
いや、そんなはずはない。
だってちゃんと僕はゴムをつけていたはずだ。いや、わからない、あの時は大して酒も飲めないくせに調子に乗って飲んでしまって、ちゃんと避妊していたか定かじゃない。
いや、違うにきまってる。そもそも妊娠したなら、あのパパ活女は死にものぐるいで僕に連絡を取ろうとするはずだ。でもどうだろうか、僕はアカウントも消して、連絡手段も全てシャットアウトしてた。もし連絡出来なくて泣き寝入りしていた場合は?
しかも用心深い僕は、自分の個人情報を相手には一切告げず、食事する場所も自分の普段のテリトリーからは離れたところをあえて選んでいた。
いや、だから、違う、そんなわけがない、確率的にありえない……!!
「パパ?」
ホノカが、不思議そうに僕の方を見てきた。僕は引きつった笑みを浮かべる。
……こうなったら、確認するしかない。
「大下くんは、お、お父さんのことは、何か記憶にないのかね?」
この質問にホノカが「パパ!?」と一瞬顔を顰めた。
違うんだホノカ。これはホノカのためなんだ。もし、万が一、いやありえないとは思うが、万が一、彼がホノカの異母兄だったら、大問題じゃないか…!!そんなおぞましいこと…!!
「あなた、」
妻が僕をたしなめようとしたけど、大下くんはカラリと笑って口を開く。
「構いません。大丈夫です。
私自身は父を見たことないので記憶もなにも無いんです。母に何度もどんな人なのか尋ねましたが、母も全然教えてくれなくて。ただ、母よりずっと年上だったことは教えてくれました。
私としては、父に会ってみたいと思っています。こうして弁護士になれたので、色々な方法でこれから父を探してみる予定です。」
大下くんの言葉に背筋が凍った。
父を、探す?
心臓がバクバクと音を立てて、もしかしてこの男、僕が父親と分かって言っているんじゃないのか?カマをかけてるんじゃないのか?
「そ、そうかね、」
僕がポツリと返事をした後、大下くんは「ちょっとお手洗いに…」と席を立った。大下くんがいなくなると、妻が不思議そうな顔をする。
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