異世界行ってもおひとり様

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 魔王は言いました。 「人間界を捨てて私と結婚しろ」  お姫様が答えます。 「そんなことをしたら、つらくて心が裂けてしまいます」  魔王は言いました。 「では体もふたつにしてやろう」  すると、お姫様の体はふたつになって、消えてしまいました。  ◇  という、出だしのオンラインゲーム「エターナル・マリッジ」。  中世ヨーロッパの街並みをイメージしたプレイヤータウン。  ここに私は今、自分のアバターと同じ容姿と服装で立っている。  まず、自分の姿ね。  ネコっぽい頭に、厚手の服、ひじまで届く手袋、首にはぐるぐる巻きにしたマント、厚手のズボンに革のブーツ。ご丁寧に長いしっぽもある。  今思ったんだけど、なぜ人間にしなかった私。  あと、そばにお供キャラが2体もいる。  名前もついていて、ネコっぽい容姿の「マルゥ」と、イヌっぽい容姿の「レティン」。  丸とレ点。  ネーミングセンスのなさはさておき。  かわいいなあ。  身長が私の腰よりちょっと高いくらいで、小さい子どもみたい。  魔物ではなく、妖精なんだよ。  ケットシーという、ネコの妖精。  クーシーという、イヌの妖精。  ネコがネコとイヌを飼ってる、なかなかシュールな図。  楽しい夢だ。  ゲーマーなら一度は見たことあるだろう、自分がゲーム内を冒険する夢。  しかも、自分も開発に携わったとなればなおさら。  と、夢を夢と認識したので、そろそろ起きる時間かな。  このすてきな景色も消えて、目覚まし時計が鳴る。  鳴る、はず。  ピピピピッと、電子音で。 「ピピピ……」  ほらね。 「鳴った。起きる時間だ」  私はまばたきした。 「マスターはもう起きてるニャー」  マルゥが首をかしげる。 「立ったまま寝てたワン?」  レティンも不思議そうな顔をする。 「あれ? 会話が成立してる。いや、それはいいか。さっきピピッて鳴ったよね」  私はマルゥに確認した。 「小鳥の声ニャー」 「ええー……」  マルゥの指した先に、小鳥が飛んでいく。  異世界に来たことを認めろと?  現状を受け入れろと?  やだなー。  誰しもが「異世界イエーイ!」じゃねぇんだよ。  家に帰らせろ。  あ、待てよ?  酷似しているだけで、ゲームと同じ展開じゃないかも。  そこら辺、ちょっとだけ確認したい。 「王様のところ行く?」  私が問うと、 「行くニャー」 「行くワン」  二人とももろ手を挙げて賛成した。
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