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 与志夫は再び深く頭を下げ、三つ数えると、その姿勢のまま後ずさって店に戻った。  シャッターを閉め、顔を上げて、自分一人になった店舗をぐるりと見回す。埃をかぶらないよう毎日ハタキをかけた棚には、閉店セールでも売れ残った履物がずらりと並んでいた。すぐに売れると確信して仕入れた草履。職人に強く推されて断れなかった下駄。商品の一つひとつに思い出がある。  鼻の奥が、じんと痛む。  創業百五十年。老舗の履物屋。その看板を、自分の代で下ろしてしまった。  罪の意識で胸が詰まる。閉店を決めてからは努めて考えないようにしてきた、「もっと何とかできたんじゃないか」という後悔と自責の念が、どっと押し寄せてきた。 「申し訳ありません……っ」  冷たい土間に両手をつき、与志夫は頭を下げた。ご先祖様たちは彼岸から、不甲斐ない六代目をどんな目で見下ろしているだろうか。ずっとこらえていた涙が、灰色の床にぼたぼたと落ちた。 「あんたはよくやったよ」  うなだれる与志夫の上から、穏やかな声がした。鼓膜を振動させず、心に直接響くような、少し掠れたキヨの声。 「あんたがこの店を継いでからは、ずっとモノの売れない時代が続いた。上等な絹の着物が二束三文でも売れずに捨てられる時代さ、草履や下駄が売れるわけもない」 「キヨ……」 「六代目はがんばった。先代も、創業者だって、きっとそう言ってくれるさ」  キヨは母親のような優しい声音でそう言い、与志夫の向かいに膝をついた。そして透ける体で与志夫を抱きしめ、触れることのできない背中をさすった。 「よくがんばったね、立派だったよ」 「ぅああ……っ」  与志夫はキヨの真心に包まれ、床にうずくまって泣いた。
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