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 与志夫は商店街から少し離れたところに、小さなアパートを借りた。土地建物を売った金で、死ぬまで暮らさなければならないのだ。贅沢はできない。  一間しかないアパートに二人(?)では息がつまるかとも思ったが、気を遣ってくれているのか、それとも新しい町の散策に生き甲斐(?)を見つけたのか、キヨはふわふわとよく出かけるようになった。 「キヨ、見てほしいものがあるんだ」  最後の片付けに商店街に行っていた与志夫は、大きな箱を持って帰って来た。それを畳の上に置き、蓋を取ってキヨを手招きする。 「なんだい、ばかでっかい箱だねぇ」  キヨは伸び上がるようにして箱の中を覗いたが、たとう紙に包まれていてなんだか分からないらしい。与志夫は包みの紐をほどき、その中身を一つずつ、畳に並べた。  それは、白無垢の花嫁衣装だった。 「今日、珠枝から譲り受けたんだ。孫にと取っておいたそうだけど、おそらくもう生まれないからって」  古着の白無垢などどこにも売れないから、いっそ布草履の材料として役立ててほしい。珠枝はそう言ったが、与志夫はこれに鋏をいれる気はなかった。 「あんた……バカじゃないの。好きな女が他の男のもんになったときの着物なんか」  キヨは心底あきれたという顔をして、上等な着物と帯を眺めている。与志夫は着物を手に取り、彼女の体に合わせるように持ち上げた。
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