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 与志夫は苦笑したが、表面的にはそれも笑顔だ。古希を過ぎ、顔に年輪が刻まれた老人の感情の機微など、若い者にわかるはずもない。 「保守的な商店街のことですから、ここに新しく入る携帯電話店の(かた)は何かと不自由に感じることがあるかもしれません。力になって差し上げてください」 「全く、こんな寂れた商店街だってのに、年寄り連中はプライドばっかり高くて困りますよ」  いたずら小僧だった古本屋の(せがれ)も、いつの間にかごま塩頭になっている。与志夫はこの店と過ごした年月を思いながら、商店街の年寄りを代表して頭を下げた。 「すみませんね」 「いや、左藤さんのことじゃないですよ。こういう言い方は失礼かもしれませんが、このたびはご英断だったと思います。僕も親父に泣きつかれて店を継ぎましたけど、自分が食っていくだけで精一杯ですしね。店を売って会社勤めした方が、どんなに楽に暮らせたか」  与志夫と同じく独身の若主人は、店舗での販売に早々に見切りをつけ、今ではネット通販中心の経営に切り替えている。商店街に人を呼び込もうと躍起になっている人たちとは反りが合わず、左藤履物店とその店主のことも陰では「生きた化石(シーラカンス)」と呼んで馬鹿にしていることを、与志夫は知っていた。
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