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 上、下、くるり。上、下、くるり。  板に固定したPPロープに、細く切った古布を編み込んでいく。何十年も繰り返した作業は何も考えずとも手が覚えていて、与志夫はぼんやりと和室の窓から朝の秋空を見ながら、布草履を編んでいた。 「なんだい、未練たらしく眺めちゃってさ」  女の声に顔を上げると、いつの間にか部屋の入り口にキヨが立っている。その言葉で目を向ければ、道向かいの和菓子屋の二階に人影があった。ベランダで洗濯物を干しているのは、与志夫の幼なじみの珠枝(たまえ)だ。 「いや、別にお向かいを見てたわけじゃ」 「見え透いた嘘をつくんじゃないよ」 「でも、そうだな。珠枝が洗濯物を干すのを見られるのも、今日で最後かもしれないな」  店の営業は今日まで、退去は明後日の予定だ。もし雨が続けばあるいはと思い改めて窓の外を見やると、耳元で意地悪い声がした。 「他の男を婿にとった女に、いつまでうつつを抜かしてるつもりだい?」 「だから、別にもうそんなんじゃないよ」 「、ね」  語るに落ちたと言いたげにニヤリと笑うキヨを、与志夫はあえて無視した。和菓子屋の一人娘である珠枝は確かに長いこと与志夫の想い人だったが、それももう昔の話だ。  互いに小さな商店の一人っ子。そんな立場を恨めしく思ったこともある。けれど例えそうでなくても、珠枝を嫁にもらうことはできなかっただろう。時代遅れの履物屋の稼ぎで、所帯を持つのは無理がある。
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