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「あんた、もう今日で店も閉めるってのに、今さら布草履なんかこさえてどうするんだい?」
「商店街のみんなから譲ってもらった古布だからね、最後に組合長に託していくつもりなんだ。売れ残りも合わせて、五十足にはなるから」
与志夫が答えるとキヨは、への字にした下唇を突き出した。
左藤履物店の主商品は和装用の草履と下駄だが、実際にはここ数年、一番売れ行きがよいのはこの布草履であった。見た目がカラフルで値段も手頃とあって、店頭に出しておけば三日に一足は売れる。原材料が古布のリサイクルなので利益率も高く、これの売り上げがなければ経営は今よりもっと苦しかっただろう。
それでも与志夫としてはやはり、草履と下駄が売れる方が嬉しい。客の足に合わせて鼻緒をすげ、その人だけのために誂えた一足を、大切に履いてもらえるのが一番ありがたいのだ。
そんな胸の内を知っているキヨは、最終日の開店前にせっせと布草履を作る与志夫を、珍しくからかわなかった。そして、そっと傍らに腰を下ろすと、立てた膝に頬杖をつき、真顔でその作業をじっと、見つめていた。
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