第11話. 涙の無駄遣い

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   ぽちさんのブログは毎日更新された。  私は毎回ぽちさんの記事をチェックするようになった。  読めば読むほど、Aさん自身が書いているのだと実感した。    ぽちさん自身は、母親からの虐待が原因で重い摂食障害を発症し、大人になった今も症状に苦しんでいる。  また、虐待された母親に対して、憎しみと愛されたい願望の狭間で揺れ動いている。   ぽちさんとAさんの境遇はおなじだった。  Aさんの場合は、両親から虐待を受けていたが、個人的に話をしてみてやはり母親のほうに囚われているように感じた。  ぽちさんの年齢は30代前半。  そして、既婚者だ。  このふたつは設定を変えているのだと思っていたが、設定を変えているのは年齢だけだと気付いたのは案外早かった。       ぽちさんは、既婚者と言っても変わった結婚生活を送っていた。  簡単に言うならば、「契約婚」だ。  旦那さんに拾ってもらい、そのかわりに家事全般をぽちさんが受け持つ、という契約。  そこに愛情など存在しない。   それでもぽちさんは、雨風をしのげる家に住めること、フカフカのお布団で眠れることが幸せだと書いている。  ―――そして、母親からの暴力に怯える必要がないことを、旦那さんに感謝の意を示していた。            そんなところが、いかにもAさんらしい。          ぽちさんの旦那さんは、朝から夜遅くまで仕事に没頭し、生活費だけをぽちさんに与えている。    その生活費で、過食嘔吐を繰り返す日々。       ぽちさんは、自分が摂食障害だと旦那さんに打ち明けずに契約結婚した。   だからそんな自分の行為を、旦那さんに申し訳ないと、度々書いてあった。          ブログを書いていることも、旦那さんには秘密にしているそう。      だから、夜はスマホを触れない、と。  そんなことまで赤裸々に綴られていた。    そういえば、私のLINEに返信が途絶えた時期と、ぽちさんが契約結婚した時期が見事に重なっている。  夜にAさんにLINEしても、既読になることは滅多にない。  料理の写真を送ってたまに返信が来るのは、決まって午前中から夕方にかけてだ。       ―――間違いない。ぽちさんは、Aさんだ。     
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