第11話. 涙の無駄遣い

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  翌日、Aさんは自分のブログでお母さんが亡くなったことを書いていた。 「自殺した」という直接的な表現は使わず、お母さんが自ら命を絶った「三段壁には一生行かないでしょう」と。       これを読んだAさんの読者さんはショックを受けながらもAさんに励ましのコメントを送っていた。     Aさんのお母さんが自殺した衝撃の事実を知らされてから、私はこれまで以上にAさんのことを気にかけるようになった。         毎日のように、AさんのLINEに連絡した。   「今日は元気にしてるかな?」   「ご飯ちゃんと食べてる?」 「体調平気かなぁ?私はなんとか頑張ってるよ〜」 「Aちゃん、辛くなったらいつでも連絡ちょうだいね」         例え返信がなくても、メッセージを送り続けた。  ここに、あなたのことを気にかけている人がいるんだよ、ということをわかってほしいから。  愛情不足で育った人間は、心配されることが何より嬉しいから。  心配されることで自分の存在価値を見出しているから。  ……少なくとも、私はそうだから。       Aさんのお母さんも、実のお母さんではなく、年齢も若い。  継母と、よく似ていた。  娘を、道具と思って支配しようとしていた。  私はもうあんな継母おんなのことなんて、吹っ切れている。  あんな性根の腐った女、いっそ消えてなくなればいいと本気で思っている。  自殺してくれれば、私は手放しで喜ぶ自信がある。  現に夫に「あの女が死んだ日には祝杯をあげようね」と約束していた。…夫はジョークだと思って笑っていたけど、私は本気だ。  ―――Aさんは、まだお母さんのことを吹っ切れていない。    まだ、お母さんに愛されたいという気持ちが残っていた。  そんな中、お母さんは自ら命を断った。       Aさんの心情を思うと、心が張り裂けそうだ。      Aさんのために自分は何ができるだろう。  考えても何も思い浮かばない。    無力な自分が、もどかしくて仕方なかった。    
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