壊滅の序曲

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壊滅の序曲

   2022年 四月十日。午後一時。  東京都某区。  麗らかな春の日差しが降り注ぐなか、妻神生樹(さいがみせいじゅ)はスクランブル交差点をフラフラと渡っていた。  ツンツンとウニのように尖った髪は、彼が左右にふらつく度に上下に何度もゆっくり揺れる。  目鼻立ちははっきりとして、使い古した袖が伸びた黒のパーカーの下にはその顔に見合った筋肉質な体が隠されていた。  野暮ったい服装をした彼はとある場所に向かっていた。 「はあ…」  彼は大きな溜息を吐き、頭を何度も乱暴に掻きむしった。 「めんどくせえ…。外に出るのが嫌だってのに、なんで俺が美和の買い物につきあわないといけないんだよ。俺に何か買わさせる気なのは薄々感じていたけど…」  ポケットからスマホをだし、時間を確認する。 「あんたもしかして、明日が何の日か忘れてないでしょうね?」 「明日?」  いきなり家に来た田井中美和(たいなかみわ)をバス停まで送って、待っていた時の事だ。  サラサラとした茶色に染めた髪を頭の後ろで結わい、整った顔立ちの大きな目を不安気に湛えた表情を生樹に向ける。  175もある身長の彼より少し低く、大きな胸を収めているブレザーのボタンは今にもはち切れそうだった。  欠伸をしながらバスを待っていた生樹に幼馴染の美和はイライラしながら生樹を睨んだ。 「明日何かあったっけ?」  眠たい目を擦りながら美和に言うと、 「嘘でしょ? 明日は私の誕生日じゃない!」と美和は怒った。
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