第2話 魅惑の菓子遺跡 シュガ

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第2話 魅惑の菓子遺跡 シュガ

古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型の物から、消しゴムのような小さな物まで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。 これはそんな者達……、三人のトレジャーハンターの物語であった。 ――菓子遺跡 シュガ  壁はビスケット。  床はチョコレートタイル。  天井にぶら下がるシャンデリアはキャンディ。  隅に置かれたソファーは、菓子パン。 「……ぐぬあぁぁぁっ、見てるだけで胸焼けがする!! 何これ、何の拷問!」  知り合いの情報屋に夢のような遺跡があると聞きつけて、トレジャーハンター三人組はシュガ菓子遺跡までやって来た。 「ミリは辛党だからねー。さすがに、これだけあると僕でもつらいかなー。視界全部がおいしい食べ物で埋め尽くされてるとかー、匂いも甘ったるいしー。ちょっとまいっちゃうよねー」  悶絶しているミリの横で、見事に甘いものだらけで出来た部屋を眺めながらケイクが言う。  到着したばかりの頃は壁だの床だのはがして食べていたのだが、今は手を伸ばす気も無いらしい。  「こんなに、たくさんの食べ物、お(うち)作るのに使っちゃうなんてもったいないよ。めっ、だよ」  ポロンちゃんは名も知らない遺跡の製作者に向かって、お叱りの言葉を送っている。 「ほんと、何でこんなもん作ったんだか。後のハンター達の身になってほしいわ」 「泥棒に入りやすく作る建物ってのも、どうかと思うよー」  そんな無茶ぶりと文句を、発言しつつ聞きつつも、三人は部屋を抜けて奥へと向かう。 「何か進むたびに匂いがきつくなってる気がするんだけど」 「うーん、普通は鼻が慣れて、鈍ってくるはずなんだけどねー」 「ってか、この遺跡……ガーディアンすら菓子で出来てるって……、どういう理屈なわけ」 「不思議だよねー。配線とか基盤とかどうなってるんだろー」  進むたびに菓子&菓子になっていく遺跡にうんざりしつつも、目指すはとりあえず最奥部。もっともスフィアのある可能性の高い場所だ。  スフィア発見の他のパターンは、通路の何気ない飾り物の中にあったり、追いかけてくる守護兵だか機械兵だかの使っている武器だったりする。必ず遺跡にあるわけではないが、通算的に全体的に最奥部に何かしらレアなお宝が眠っているのはセオリーだった。 「あの時ポロンちゃんがこけて押した警報装置で、機械機械した兵士が集まってきたときはどうしようかと思ったけど、まさかあのリーダーの槍がスフィアだったなんてね」 「ホントだよねー、ポロンちゃんが見惚れて持って帰った花瓶の中にスフィアがあったなんてねー。最奥部への扉を壊す爆薬量を、ポロンちゃんが間違えて部屋が大爆発。で、がっかりしててせめてそれだけでも持ち帰ろうって思ったんだっけねー」 「あうう……ポロン、何でか胸が痛くなってきちゃった。どうしてだろ。胸焼けかなぁ」  そんなやりとりをしているうちに、三人は最奥部にたどり着く。  飴やらチョコやらでつくられている相変わらずな扉を開けて中に侵入。 「スフィアスフィアっと…。…………」 「わー、何にもなーい」 「ただのお部屋さん……? はぅっ、ミリちゃん。お目めが死んじゃった魚さんみたいになってるよっ!」  見事に壁と天井と床しかない部屋。魂が抜けていきそうになったミリだが、ぎりぎり引き戻した。 「だあぁ! へこたれてたまるか。こちとら何度も遺跡に潜ってからぶるのは経験済みだっつーの!」 「さすがー、っていっても実質まだ経験的にはそんなにはー、やってないんだけどねー」  ケイクは、懐から丸々しい物体をとりだして部屋の内部を歩き回り始めた。 「あー、それ一ヶ月くらい前にゲットした探知のスフィアじゃん。前、誤作動して池の上だとか屋根の上だとか歩かされたやつ。あと一回は使えるんだっけ」 「うんうんーさすがに前回は、巨大葉っぱが無かったら水の上のあそこは無理だったよねー。今回はちゃんと調整しといたから大丈夫だと思うよー」 「じゃあポロンは、動力いらず即席炊飯器さんのスフィアでご飯つくってるね!」  ポロンは、見た目普通の炊飯器な便利アイテムを取り出し、食事の用意を始める。 「スイッチ入ってるし。いつ炊いたの? いや、いいってば。いつ緊急事態になるかわかんないんだし。……って、この濃厚な甘い匂いどこから……?」  海苔と具の入ったビンを並べておにぎりを握り始めるポロンは、周囲の匂いをかぎ始めたミリの様子に首を傾げる。 「どうしたの、ミリちゃん、……ケイク君も。くんくん、あれ? さっきよりすっごく甘い匂いがする。……何だか頭がぼーっとしてくるよ?」  ぼんやりとし始めていたポロンの目を覚ますように、突然通信機の呼び出し音が鳴り響いた。 「もしもしポロンだよ。どちら様ですか……うん、ポロンお電話のマナーちゃんと言えたっ!」 『毎回このやり取りしてるわね。私よ私』  かけてきた相手は、二ャモメ団の移動手段である飛空船イルカ号の操縦士だった。 「セツナさんだっ! どうしたの? 遺跡の探索中にかけてくるなんてとっても珍しいね。あっ、海苔さんと具さん冷蔵庫から勝手に持ってきちゃったの怒ってるの? ふぇぇ、ごめんなさい」 『あ、いつのまにか無くなってると思ったら……じゃなく、いますぐその遺跡を離れなさい。さもないと大変な事になるわよ』  通信機の向こう側からは普段聞かないセツナさんの、切羽詰った声が聞こえポロンはお耳を真剣モードに変えた。  なので気づかなかった。  うつろな目をしたミリとケイクがゆらりゆらりとポロンに近づきつつある事を。 『さっき情報屋さんから慌てて入ったきた情報なんだけど。そこにいるものは、遺跡の内部から漂う匂いを長時間かぐことによって何と……、もしもし? ポロンちゃん聞こえてる? ポロンちゃん?』 「いたたたた、通信機落としちゃった……。いたたた、いたいー、ポロン食べられてる。ミリちゃん、ケイク君、ポロンは食べ物じゃないよー!」 「等身大の塩せんべいが……一枚、二枚……。おのれせんべいの分際で動くなっ」 「この立体ケーキポロンちゃんみたいーなんでだろー。まいっか、いただきまーす」 「誰か助けてー。あ、歯形が……いたたた。それは髪の毛なんだよっ!」  
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