ラッキーフードは、天丼。

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ラッキーフードは、天丼。

 付き合っている頃は気づかなかったが、結婚して初めて知るパートナーの癖や習性というものがあるだろう。  私の妻の場合は占いだ。と言っても結婚前からその前兆はあった。雑誌の占いコーナーのことはよく話題に出たし、デートのときにも占いの店があれば彼女の誘いで立ち寄ることは多々あった。  だが結婚してからというもの、彼女の行動は完全に占いに支配されていることに気づかされた。朝の情報番組から始まって、新聞やインターネットのサイトまで、あらゆる占いに目を通し、その日の恵方やラッキーアイテム、ラッキーカラーを参考に着る服や行き先や行動を決めるのだ。  新婚当初はそれも彼女の身の回りのことだけに留まっていたが、月日が経つにつれて私の生活圏にも影響が及ぶようになった。  その日も朝食を終え、身支度を整えて玄関に向かおうとしたのだが、妻は見送るどころかテレビに釘付けになっていた。当然放送されているのは占いコーナーだ。 「お前、本当に好きだな」  彼女は画面に視線を向けたまま、 「悪い?でもこれをちゃんと観ておかないと今日一日乗り切れない気がするのよ」 「そんな大げさな。たかが占いじゃないか」  横顔にムッとした表情が浮かぶが、視線は動かない。 「そんなことないわよ。これがなかなか当たるんだから。あなたとの結婚だってこの占いがあったからのよ」  そう言えばそんな話を聞かされたことがあった。占いにあったラッキーアイテムを買うために立ち寄った店で、偶然私と出会ったとか。  ああ、そうだったなと適当に相槌を打ってから、 「じゃあ、行ってくるよ」 「ちょっと待ってよ。もうすぐ終わるから」  彼女はしばらくテレビを睨んでから、 「私の今日のラッキーカラーはブルーだって。ちょうど良かったわ」  彼女は自分の耳を指差した。そこには青い石のピアスがあった。 「それよりもあなた」  今度はその指先をこちらに向ける。 「今日はうお座が最下位だったから、気をつけてね」 「気をつけるってなにを?そもそも俺はそんなもの気にしないんだけど」 「だめよ、そんなことじゃ。重要なデータを失う恐れあり、って言ってたんだから。例えばパソコンが壊れたり、スマホを落としたりするかもよ」
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