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リン、ゴーン。リン、ゴーン。リン、ゴーン。
鐘の音が鳴り響く。
控室にはデコルテラインの綺麗な白いウェディングドレスを着た夏海が少し緊張した面持ちで、ただ時が過ぎるのを待っていた。
コンコンコン。
ノックして部屋に入ってきたのは瞳子だ。
「夏海ちゃん、支度出来た?」
「トウコちゃん……もう緊張しまくりなんだけど、どうしよう……」
「どうしようも何も……今更でしょ」
「まさか、本当に結婚出来るとは思ってなかったよ。やっぱりあの時、トウコちゃんに相談して良かったぁ。ありがとね」
「なんのナンの。うちの弟、なかなかいい物件でしょ。いい歳なのに結婚する気もなさそうだったし。誰かいい娘いないか、って母さんにも相談されてたんだよね。そんな時に夏海ちゃんから相談を受けて。夏海ちゃんなら私も母さんも気兼ねなく接すること出来るし、弟の嫁が夏海ちゃんで嬉しいわ。秋太はうちの息子の遊び相手やらせてたから、パパになったら面倒見やってくれるよ。優しいから、家事も甘えたら絶対やってくれるし。夏海ちゃんにとってもラクだよ~」
「それもこれもトウコちゃんのアドバイスのおかげだよ。どうすれば秋ちゃんと結婚出来るか、トウコちゃんが教えてくれたからだし。本当ありがとね。ただ……」
「ただ……?」
「本当に結婚してよかったのかな、って。本当言うと『恋愛』したかったんじゃないかなって思って」
「その相手は? 秋太じゃダメだった」
「ううん。秋ちゃんのことは好きだったから『恋愛』も出来たし、『結婚』することに後悔はしてないんだけど……不安になるんたよね。秋ちゃんとは安定した関係で。だからこそ『恋い焦がれる』ような……なんて言うのかな『激しい熱』みたいなものがなくて。……結婚してからそんな『恋愛したい人』に出会ってしまったら……どうしよう……って」
リン、ゴーン。リン、ゴーン。リン、ゴーン。
鐘の音が式の開始を知らせる。
「そんなこと……その時になってみないとわかんないでしょ。それが今日じゃないことを祈るわ」
そんな会話が控室で繰り広げられてるなんて、当の俺は知る由もなかった。
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