七、人間、磨けば輝く原石

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七、人間、磨けば輝く原石

保健室での小事件依頼、悠佑にちょっかいを出して来た女子生徒は、悠佑の前には二度と姿を現さなくなった…と同時に、悠佑のなな子に対するデレデレ度がさらに増していた。 「ちょっと…悠佑の机そっちでしょ?何私の机で授業受けようとしてんのッ。狭いんだけど」 なな子は悠佑を押しやる。 「隣の席もこっちも変わらねぇじゃん」 そう言いながら悠佑はなな子の腕にしがみつく。 「いやいやいや…暑くるしいわっ!」 なな子が怪訝な表情をさせる。 「なんか香月、前にも増してななちゃんのひっつき虫になってない?」 涼太が苦笑いしている。 悠佑「え、前からこうだぜ?」 なな子「・・・」 「ねぇ…、何か最近うちのクラスの女子、急に眼鏡率高くなってない?」 玲花が突然呟いた。 「確かに…。あの子も眼鏡になってる…あっ!あの子も眼鏡、えっ…あの子もだ…」 多満子がキョロキョロしている。 「ふふ…単純ね、人間って」 なな子は微笑した。 「何で眼鏡の子が増えたんだろ?そんなに視力悪くなる時期?」 涼太は目を丸くさせながら周りを見渡した。 すると、なな子と玲花は多満子と涼太を交互に見た。 涼太「ん?」 多満子「え…?」 悠佑「?」 「やっぱ人間…単純だな」 吾郎がボソっと呟くと、なな子と玲花は顔を見合わせ笑った。 「え…なになにー?」 涼太と悠佑、多満子はなな子達に慌てて聞き返した。 --- 昼休み、玲花は図書室へとやってきた。 吾郎との水汲み場での出来事から、玲花は吾郎への気持ちが大きくなっていた。 玲花は吾郎との共通点を掴むべく、吾郎がよく読んでいる本を借りに来た。 "アイツが読んでるのって確かこの辺の本だよな…" 玲花は本棚の数ある本をまじまじと見た。 「何探してんの?」 突然後ろから声がした。 ビクッ!! 玲花は急に声をかけられ驚き慌てて振り返る。 そこには吾郎が立っていた。 「ま、松尾っっ。何でここに…」 玲花は驚きのあまり本棚へのけぞった。 「何でって、本選びに来たんだけど」 吾郎は不思議そうに玲花を見た。 「そ…そっかそっか…ど、どうぞどうぞ…」 玲花は本棚の前を吾郎に譲った。 「逸ノ城さんも何か探してたんじゃないの?」 吾郎は玲花を見た。 「あ…えーっと、、うん…そうなんだけど…」 玲花はしどろもどろに応える。 「探してやろうか?何の本探してんの?」 吾郎は本棚を見た。 玲花は吾郎をチラッと見ると、横で真剣に本棚を見回す吾郎の姿にさらに胸をキュンとさせた。 「・・松尾が好きな…本」 玲花は俯きながらポツリと言った。 「え…」 吾郎はキョトンとしながら玲花を見た。 「松尾がいつも読んでる本…探してた」 玲花は恥ずかしそうに顔を背けながら言った。 「俺がいつも読んでる本?」 吾郎は驚きながら玲花を見つめる。 「ま…松尾の事…、もっと知りたいって思ったんだよッ」 玲花は顔を赤くする。 「・・・っっ!…何で…また…」 吾郎も若干頬が赤くなり顔を逸らしながら言う。 「す…好きに…なったからよッ!悪い!?」 玲花は顔を真っ赤にしながらも、照れ隠しをするように吾郎を睨みつけた。 「!!」 吾郎は驚いた表情のまま固まった。 「・・・っっ」 居た堪れなくなった玲花はその場を立ち去ろうとした。 すると、玲花の手を吾郎がすかさず掴んだ。 「・・・っっ!!」 玲花は驚いて吾郎を見た。 吾郎は顔を赤くし玲花を見つめながら言った。 「俺、結構スパルタだけど…それでも良い…?」 吾郎のその言葉で、玲花の好きを貯めていた心のダムが……ついに決壊し溢れ出した。 「うん……。良い…」 玲花は呆然と吾郎を見つめながら静かに呟いた。 一方その頃、 「チャン、りん、シャン…、この人はね、悪い人じゃないの。お願い、悠佑にもちゃんと心を開いてッ!この人はね、私の彼氏なの。あなた達も分かってくれるわよね?もう、ど突いたり牙出したりしちゃダメよッ」 なな子は校長の愛犬、柴犬三兄弟を前に説得をしている。 柴犬三兄弟のチャンとりんとシャンは、若干猫背気味のおすわりをしながら、シュン…としている。 なな子「悠佑、たぶんこれでこの子達も分かってくれたと思うわッ!触ってみて!」 悠佑「えぇっ!本当に大丈夫かよ…。何か…すっげぇ不機嫌そうなんだけど…」 なな子「大丈夫よ。この子達、どことなく悠佑に似てるし」 悠佑「え…だからかァ…。どっかで見たことある感じがしたのは…。確かに俺の兄貴と弟そっくりだわ」 なな子「ってことはやっぱり、悠佑にも似てるってことね」 悠佑「・・・っ。否定できねぇわ…」 なな子「さぁ、撫でてみて」 悠佑「・・・うっ…」 悠佑は意を決して柴犬三兄弟の長男、チャンの頭を撫でた。 チャン「・・・・」 柴犬のチャンは、まるで無の境地に達した地蔵のような表情と佇まいで悠佑に撫でられていた。 なな子「大丈夫そうじゃない」 悠佑「うん…。なんだか…冷めてる表情してるけどな…。触らせては…くれたな…」 悠佑は複雑な心境ではあったが、柴犬三兄弟に少し歩み寄ることが出来、一歩前進したような気がした。 柴犬三兄弟との心の距離を1ミリずつでも縮めて行こうと思う悠佑であった。 --- 「まさか、おまえら二人が付き合い出すなんてなァ…。世の中何があるか分からねぇなッ」 悠佑が付き合いたての玲花と吾郎をまじまじと見ながら言った。 「えへへへ…」 玲花が照れ笑いした。 「・・・っっ」 吾郎は赤くなった顔を隠すように逸らしている。 「でも、松尾くんが女の子と付き合い出したのはビックリだなーッ!」 涼太が驚きながら吾郎を見た。 「だって松尾くん、ずっと玲花の事好きだったよね?」 なな子が吾郎にサラリと言った。 多満子は笑顔で頷いている。 「え…」 そこにいたなな子と多満子以外の全員が、驚きの表情で吾郎を見た。 「え…嘘でしょ…?」 玲花は顔を赤くしながら吾郎を見つめた。 「・・・っっ。さすがに鷹鳥さんと穂積さんにはバレてたか…」 吾郎はそう言うと苦笑いした。 なな子と多満子は顔を見合わせ笑った。 「えぇっっ!本当に!?い、いつから!?」 玲花は吾郎に詰め寄る。 「うっ…。・・と、隣の席になってから…ずっとだよッ!!この鈍感ッ!」 吾郎は照れている自分を誤魔化すかのように言った。 「ど…鈍感って!分かるわけないでしょー!ていうか…吾郎から好きってまだはっきり言われてなーいッ!!」 玲花は吾郎に抗議した。 「うっ…」 吾郎は顔を赤くさせ狼狽える。 「素直になれない二人…初々しいな」 涼太の言葉を聞き、玲花と吾郎は顔を真っ赤にしながらおとなしくなった。 そんな玲花と吾郎の姿を見たなな子達四人は微笑ましく思い目を細めた。 すると吾郎は話を切り替えるかのように、ここぞとばかりに言った。 「そう言えば…香月くんも、入学した時からずっと鷹鳥さんのこと好きだったよね?」 吾郎の言葉に一同悠佑を見た。 「なっっ…!!何で急に俺の話になるんだよッ」 悠佑は決して誰にもバレていないと思っていただけに、吾郎にズバリ言い当てられひどく驚き、慌てふためいていた。 "入学した時から…?" なな子はキョトンとしながら悠佑を見た。 「だって香月くん、入学式当日の同じクラスになった時からずっと鷹鳥さんの事目で追ってたし、席替えの度に鷹鳥さんの隣の席になった人と交換してもらってたもんね」 吾郎が冷静に推理していた。 " 悠佑「なぁ…おまえ、席変わってくれねぇ?俺今、そこの場所って気分なんだわ」" 「うっ…」 悠佑がたじろぐ。 「え…」 なな子は驚きながら悠佑を見た。 「・・・チッ…。松尾、見てたのかよッ」 悠佑は小さく呟くと赤くなった顔を逸らした。 「だからずっと隣の席だったの…?」 なな子はキョトンとしながら悠佑を見つめた。 「・・・っっ。ハァ…そうだよ」 悠佑は観念したかのように呟いた。 「どうして…」 なな子は驚いた表情で悠佑を見た。 「・・実はさ…高校入学する前に俺、この近くの路地で、ある現場に遭遇したんだよ…」 悠佑は遠くを見つめながらゆっくりと思い出すように話し出した。 「…っ!!」 なな子は驚き固まった。 「・・・」 皆は黙って悠佑の話を聞き始めた。 悠佑「その時、中学生になったばっかぐらいの子が何かヤベェ奴らに絡まれててさァ。俺、そいつの所に走ってこうとしたら突然…一瞬でそのヤベェ奴らが倒されててよぉ。その中心で俺と同世代ぐらいの女の人が清々しい感じで立ってたんだよ…。そしたらその女の人、絡まれてたその子に声かけててさ…」 "礼なんていいよ。それより大丈夫?この道、ああいう連中が多いから一人じゃ通らない方がいいよ" 「・・・・」 なな子は、俯きながら黙って聞いていた。 悠佑「でも助けられたそいつが言ったんだよ…。この道は一人だってどうしても通らなきゃいけない道だから…って。そしたらその女の人…こう言ってたんだ」 "ふーん、じゃあ…この道、君が安心して歩けるように、私がしといてあげる" 悠佑「その後に、続けてこうも言ってた…」 "あと…今君が経験した事は決して無駄なんかじゃないから。こういう経験してる時点で君はもう強い…自信持ちなよ" なな子「・・・っっ」 悠佑「後ろ姿しか見えなかったんだけどさ、長い黒髪が綺麗な女の人…」 悠佑はチラッとなな子を見た。 「えっ、それって…まさか…」 玲花がそう言うと、一同なな子に目を移した。 「・・・っっ」 なな子はたじろぎながらさらに俯いた。 "まさか…あの時の私を悠佑に見られてたなんて…" なな子は心の汗をそっと拭う。 「それで俺…慌ててその女の人を追いかけようとしたんだけどさ、地元の奴らに声かけられて身動き取れなくなっちまって…」 そう言って悠佑は俯いた。 悠佑「高校に入学してなな子と同じクラスになった時、あの時見た後ろ姿によく似てるなって思ったけど、ビックリするぐらい分厚いレンズの眼鏡かけてるし…違うかって諦めてたらさ、なな子が先生に当てられて答えてる時…俺耳を疑ったよ。なな子のその声と口調が、あの時に聞いた女の人と同じだったから…。あの時の女の人って、やっぱ鷹鳥なな子なんじゃねぇのか?って思い始めて…」 なな子「・・・っっ」 「でも、学校でのなな子はおとなしかったし…まさかあんな極厚眼鏡の子が男達を簡単に倒すぐらい強えなんてどうしても思えなかったし。そもそもその時の俺の感情って一体何なんだ?って…。鷹鳥の事を俺が本気で好きになってんのかどうなのかもよく分からねぇし…。どれ一つ取っても何一つ確信ができねぇままで…俺、結構迷走してたんだわ」 悠佑はそう言うと苦笑いした。 「じゃあ…悠佑が留年しそうなくらい成績下がったのって、私のせい…?」 なな子は真剣な表情で悠佑を見つめた。 「いや…それはなるべくしてなった…」 悠佑は苦笑いしながら否定した。 「っていうか、なな子…そんな強かったんだ…」 玲花は目を丸くしてなな子をまじまじと見つめた。 「あぁ…まぁ…あはは…」 なな子は誤魔化すように笑う。 涼太「俺は知ってたよ」 なな子「・・っ」 吾郎「俺も知ってた」 なな子「松尾くん…」 多満子「私も強そうだとは思ってた」 なな子「多満子ちゃんまで…」 玲花「えぇ!!知らなかったの私だけじゃーん!言ってよーッ、なな子ーっ!」 「い…いやいや…それは…」 なな子はたじろいだ。 なな子はチラッと悠佑を見ると、悠佑はなな子を真っ直ぐ見つめていた。 ドキッ… なな子は悠佑の真っ直ぐ向けらた視線から逸らすことができなくなった。 すると、そのままなな子を真っ直ぐ見つめながら悠佑は言った。 「だから俺は、なな子の事…もっと知りたくてずっと隣の席に座り続けてたんだよ」 悠佑は顔を赤くしながらも真剣な表情でなな子を見つめ続けた。 ドクッ…ドクッ… なな子の心臓のリズムが強くなる。 「・・・そう…だったんだ…。ごめん…全然気づかなくて…。それと…ありがと…」 なな子は恥じらう表情で俯いた。 「…っっ」 そんななな子の表情を見た悠佑は胸をキューンっとさせ、顔をさらに紅潮させた。 「なんだ香月、めっちゃ一途じゃん」 涼太がニカッと笑いながら悠佑を軽く突いた。 「・・・っっ。…うっせぇなァ…」 悠佑は照れながら顔を背けた。 そこにいた皆は、そんな悠佑を微笑ましく思い笑顔で見つめた。 「そっか…。悠佑もずっと戦ってたんだ、自分の気持ちと」 なな子はそう言うと優しい眼差しを悠佑に注いだ。 なな子の眼差しに合わせるかのように悠佑もまた、愛おしい眼差しを送りお互いに見つめ合った。 そんななな子と悠佑の二人を見た玲花は思わず呟いた。 「ねぇ、ここの二人の間が熱すぎて陽炎が見えるんだけど」 するとそこにいた仲間達にどっと笑いが起きた。 「ほんとだーっ!見える見えるーッ」 涼太が笑いながらなな子と悠佑の間で手を振った。 ----- 「小梅ちゃんはさァー、おまえと違って可愛らしいんだよーッ」 「はいはい、どうせ私は可愛くないですよ」 「それに小梅ちゃんはなァ、おまえと違って色気もあるし」 「・・・っっ」 翌日、教室のどこからともなく聞こえてきた会話。 なな子はその方向に目を向けると、クラスメイトの男子 大友(おおとも) (すぐる)と、同じくクラスメイトでかつて玲花と連んでいた 和泉(いずみ) 苺花(まいか)のやり取りであった。 苺花は先日、玲花の陰口を言ってなな子に喝を入れられていた女子の一人である。 「何あれ…」 なな子はそんな二人を見つめ思わず呟いた。 「あぁ、苺花達ね…。あれいつもの事よ。大友の奴、苺花とは幼馴染なんだけどね…昔から何かにつけて誰かと比べるような言い方すんの。最近大友に彼女が出来たらしくて、さらに調子乗ってるって感じねー。苺花もさすがにそろそろ、ガツンと言ってやれば良いのに…。あ、あの二人…今日日直なんだー」 玲花がため息混じりに説明する。 なな子は黒板に目を移した。 "日直 和泉 苺花・大友 優" 「・・ふーん…」 なな子は名前を見つめながら呟いた。 「あの言い方は人間としてダメだな」 吾郎は優を冷ややかに見ながら呟く。 「なんだ…和泉も苦労してんだな、大友で」 悠佑も驚いたように苺花と優を見た。 「小梅ちゃんはおまえと違って名前通りに可愛いんだぜ?苺花…おまえ、せっかく名前は可愛いんだからもっと小梅ちゃんみたいに女らしくなれよー。そんなじゃ名前負けして誰ももらってくれねーぞー!(笑)」 優はそう言いながら苺花の頭をワシャワシャしている。 「・・・っっ」 苺花は何かを堪えるような表情をさせた。 涼太「うわ…。ヒドイ事言うな大友…」 多満子「幼馴染でも度を越してるような…」 すると、なな子はスッと席を立つと、苺花と優の元へ静かに近づいて行った。 悠佑「あ、なな子のスイッチが入った」 涼太「おッ、ななちゃん…」 悠佑達はなな子の動向を見守った。 ガシッ… なな子は苺花の頭をワシャワシャする優の手を掴んだ。 なな子「・・・」 なな子は無表情でじーっと優を見つめた。 優「・・・っっ!?」 苺花「!」 優と苺花は突然現れたなな子を凝視した。 なな子「悠佑はアンタと違って、思いやりがあってすごく誠実で、優しい最高な男よ」 優「・・・っ」 悠佑「…っ!!なな子…(照)」 悠佑は目を見開き一気に顔を赤くする。 なな子「楠木はアンタと違って、女性に対してちゃんとデリカシーのある紳士な男よ」 涼太「な…ななちゃん…(照)」 涼太も目を丸くし顔を赤くさせた。 なな子「松尾くんはアンタと違って、発する言葉にはちゃんと責任を持ってていつでも正しい事しか言わない頭の冴える男なの」 吾郎「・・・っっ(照)」 吾郎は若干頬をピンクに染める。 「・・そう、アンタと違って」 なな子はギロリと優を見つめた。 優「な…何だよ…さっきから…失礼な…」 なな子「あら、失礼だって思うのね」 優「そりゃそうだろッ…わざわざ他の男と天秤にかけるような言い方…」 なな子「さっきまで耳障りなぐらい和泉さんにも同じように言ってたアンタがよく言うわね。私、ただアンタの真似しただけなんだけど」 苺花「・・・っっ」 「なっ…!…コ、コイツは良いんだよッ!幼馴染なんだか…」 優がそう言いかけると、被せるようになな子が大きい声をあげた。 「はあぁぁあー!?」 なな子の額に怒りマークが浮かび上がる。 優「ビクッ…!!」 苺花「!!」 なな子の叫びに教室に居合わせた生徒達が皆固まった。 「幼馴染は良いなんてルールどこにもねえーよ!親しき仲にも礼儀ありだろーがぁッ!世の中何言っても許される人間なんていねぇんだよッ。みんな同じ人間だからなッ。アンタが他人と比べられて不快に思うのと同じように、和泉さんだって不快に思うに決まってんだろッ(巻き舌気味)!!アンタは何年和泉さんの幼馴染やってんの?そんな事ぐらい、通りすがりの私なんかに言われなくたって分かれよッ!このすっとこどっこいッ!」 怒りのマグマ噴火を起こしたなな子は、優に向かって一気に捲し立てた。 なな子は怒りのボルテージが最高潮に達すると、途端にヤンキー口調になり"すっとこどっこい" と言い放つ習性があった。 優「・・・っっ!!」 苺花「…す…っっ」 教室はなな子のすっとこどっこいの言葉を最後に静まり返った。 涼太「すっとこ…どっこい…」 悠佑「久々に聞いたわ…」 涼太「そう言えば…今思い出したけど、小学生だったあの時もななちゃん言ってたわ…」 悠佑「え…」 なな子はワナワナと威圧感を伴わせながらも冷静になり、落ち着いた口調で続けて言った。 「そんなんじゃ、あんた…せっかく出来た愛しの彼女にだって、そのうち捨てられるよ?」 優「・・・っっ…」 苺花「鷹鳥さん…」 「あぁ…今度また "おまえと違って" って言葉口にしたら…あんた…タイキックだからな?」 なな子は腕を組みながら大友を冷めた表情で見上げた。 「えぇっっ…!」 優は驚愕した表情でなな子を見た。 「言っとくけど私、回し蹴りが得意なの」 なな子はそう言うとニコッと笑った。 「ヒィッ…」 優は顔面蒼白になる。 「た…鷹鳥さんっっ…」 苺花はなな子に声をかけた。 するとなな子は、苺花に目を移した。 「あ…ありがとう…。私が思ってたこと全部言ってくれて…スッキリした…」 苺花は恥ずかしそうに言った。 「…っっ」 苺花の言葉を聞いた優は気まずそうにしていた。 なな子は優しい表情になると苺花に言った。 「和泉さんは、もう充分…名前通りに女の子らしいよ。他の誰かみたいになる必要はない。ちゃんと和泉さんなりの魅力があるんだから、自信持ちなよ」 苺花「・・・っっ!!」 この瞬間…苺花は、長年幼馴染からかけられていた"誰々のように"と言う呪縛から解き放たれた気がした。 と同時に、常日頃"女の子らしくない"と言われ続け自身のコンプレックスにもなっていた「女らしさ」というものを初めて認められたような気がした。 苺花の目からは自然と涙が溢れた。 なな子は苺花にニコッと微笑むとその場を立ち去った。 苺花はそんななな子に、ただただ呆然と見惚れていた。 「あ!」 なな子は思い出したようにぐるりと振り返り優を見た。 優「!?」 苺花「?」 なな子「大友…あんたさっき、人の名前のことについてごちゃごちゃ言ってたけど…自分のこと棚にあげちゃダメだよ。あんたの名前だって、優しいって字なんだから。身近な人にこそ、もっと優しくならなきゃね?(すぐる)くん」 優「…っっ!!」 なな子はフッと笑って去って行った。 「・・・」 優は、自身の下の名前を呼び笑みを溢したなな子に見惚れ、呆然と立ち尽くした。 なな子の飴とムチの破壊力は、凄まじかった…。 しばらくすると優は、苺花の方を向き真面目な表情で言った。 「・・・苺花、なんか…今まで…その…ごめんな…。俺、だいぶ無神経だったわ…」 「…っっ!!」 苺花は初めて見る優の反省する様子に驚いた。 苺花「・・・ふんッ。分かれば良いのよ分かればッ。あぁーあッ!鷹鳥さんはアンタと違って、カッコイイわッ」 優「うっ…」 -- 悠佑「なな子が任務から帰ってきた」 涼太「ななちゃん、おかえりーッ!今回もカッコ良かった」 玲花「あれは私でも惚れちゃうわ」 多満子「私もーっっ」 悠佑「おまえのすっとこどっこい…久々に聞いて何かキュンとしたわ…最初の頃思い出して…」 涼太「俺も小学生の時思い出した…(笑)」 なな子「・・・っっ」 すると、悠佑が改まって照れながら言った。 「なな子のさっきの言葉…嬉しかった…」 なな子「・・・っっ!」 涼太「俺もだよーッ!」 吾郎「お…俺も…」 涼太と吾郎も照れながら笑顔を溢した。 玲花と多満子は顔を見合わせ笑った。 「・・・なんか…そんな改まって言われると小っ恥ずかしいからやめてよ…」 なな子は小声でそう言うと少し赤くなった顔を隠すように俯いた。 「いやッ!何だよそれーッ!!もーッ!おまえのギャップ、まじでヤバすぎだからーッ」 悠佑はそう言うとなな子にぎゅーっと抱きついた。 「ちょ…っっ、暑いッ!離れてっっ」 なな子は狼狽えながら悠佑を追いやる。 「・・・」 すると悠佑は突然ピタッと止まり静かになった。 「・・・?」 なな子は不思議に思い悠佑を見た。 涼太や玲花達も不思議そうに悠佑を見る。 悠佑「でも…なな子が俺以外の男の下の名前呼ぶのは、何かモヤるわ…」 涼太「え…やきもち…」 なな子「・・・っっ!!…どんだけ情緒不安定なのよ」 悠佑「もぉーそれ言うなよーッ!なな子と付き合い出してからマジで悩んでんだからー」 なな子「・・・・」 なな子は悠佑の顔をじーっと見つめた。 悠佑「・・・っっ」 ギュッ… なな子は静かに悠佑の手を握った。 「…っっ!!」 悠佑はなな子に握られた手を凝視した。 「・・・ごめん…気をつける」 なな子は真面目な表情で悠佑を見つめながら言った。 キュンッ… 悠佑の心はまたしてもなな子にロックオンされた。 「・・うん…許す」 悠佑は、なな子を愛おしそうに見つめながら静かに呟いた。 玲花達は、そんななな子と悠佑の二人を微笑ましく思いながら見つめていた。 玲花はふと、かつて連んでいた苺花の方に目を向けてみた。 玲花と苺花は目が合うと、お互いに笑顔になり静かに笑い合った。 --- なな子は多満子と玲花と共に昼休みから戻り教室に入ろうとした。すると、教室内からはなな子を話題にしたクラスメイト達の会話が聞こえてきた。 「鷹鳥さんって、喧嘩強いらしいよー」 「そうそう、さっきの大友に怒鳴ってたのも凄かったよなー」 「鷹鳥さんが喧嘩強いなんて…何かもったいなーい」 「喧嘩強いのって女らしくないよねー」 「らしくない、らしくない(笑)」 「美人なのになんか残念…(笑)」 なな子「・・・・っ」 玲花「ちょっとッ…」 多満子「…!!」 「…っっ」 玲花はそんなクラスメイト達の会話を聞いてすぐさま教室に乗り込もうとした。 するとすかさず、なな子が玲花を止めた。 「大丈夫。こういうの慣れてるし」 「でも…」 玲花は眉間に皺を寄せた。 すると… 「くだらねぇな」 突然、教室から悠佑の声がした。 なな子達が驚き教室を覗くと、悠佑が先程の会話をしていたクラスメイト達に向かって言っていた。 「強かろうが弱かろうが…それが女なんだったら、どっちも女らしさなんじゃねぇの?」 悠佑は普段の陽気な雰囲気とは異なり、真面目な表情で言っていた。 気迫の伴った悠佑の様子に、先程話していたクラスメイト達は息を呑む。 悠佑「女だっていう人間に、そもそも女らしくねぇ人間なんかいねぇよ。どんな奴だろうとな」 なな子「・・っっ」 珍しくクラスメイトに強い口調で話す悠佑の姿に、なな子はもちろんのこと玲花や多満子も目を見張る。 教室の片隅にいた苺花や優も、驚いたように悠佑を見ていた。 悠佑「女とか男とか、らしくねぇとか…人間そんなつまんねぇ型にハメんな。"らしさ"なんてのはなぁ…何通りもあんだよ」 悠佑は、鋭い眼差しで先程なな子について会話をしていたクラスメイト達を一瞥すると、自身の席へと戻って行った。 悠佑に言われたクラスメイト達は、何も言えずに呆然としながら悠佑を見ていた。 苺花と優も、それぞれ感慨深い様子で悠佑の言葉を聞きながら、悠佑を見つめていた。 玲花「良い事言うじゃん、アイツ」 多満子「感動したっっ」 なな子「・・・・」 なな子は悠佑の姿を見つめながら小さく微笑んだ。 涼太「香月ーっ、おまえと友達になれて良かったわ、俺…(涙)」 悠佑「なんだよ、気持ちわりいなッ」 吾郎「香月くん、良く言った。見直した」 悠佑「おめぇは何様だよッ」 ガラガラ… そこへ、なな子達が教室に入って来た。 「・・っ!」 教室にいた生徒達は、タイミング良く入って来たなな子に驚き固まる。 なな子は教室に入るなり真っ直ぐ悠佑の元へ歩いて行った。 「…っっ」 悠佑はなな子を見るなり顔を若干赤くさせながら目を逸らす。 なな子「悠佑…」 悠佑「…?」 なな子「大好き」 悠佑「…っっ!!」 なな子が珍しく大きめの声で発した愛の言葉に悠佑は驚き目を見開くと、顔を真っ赤にさせながら固まった。 この時、悠佑にはまたもやなな子の恋雷が落ちていた。 なな子と悠佑はお互い愛おしそうに見つめ合った。 二人の一連の姿を見ていたクラスメイト達は、なな子と悠佑が素敵な恋人同士であるという事を認めざるを得なかった。 そんな二人を羨ましそうに見つめるクラスメイト達であった…。 ----- 休み時間- 悠佑と涼太、吾郎の三人が廊下を歩いていると前の方から一年上の先輩達の会話が聞こえてきた。 「俺、駅前にある名門の 鷹ノ爪隠塾(たかのつめいんじゅく)に通おうと思う」 「マジ?私達も通う予定なんだけどー!」 「あの塾ってどんな難関な大学でも絶対に合格できるって有名だもんね!」 「あの塾通えば学年トップも夢じゃないかもなァ」 「そう言えば…学年トップで思い出したんだけどさぁ、この学校の一年で成績トップの鷹鳥なな子って子いるじゃん?」 悠佑と涼太、吾郎の三人は同時に耳をピクリと動かした。 「あぁ、最近実はめっちゃ美人だってのが発覚した子な」 「あの子のお父さんって元暴走族の総長だったらしいよーッ!それも、無敵で知られる有名な暴走族の総長だったって…」 「げっ、マジで??だからあの子、喧嘩も強いって噂なのかッ!こぇぇーっ。人って見かけによらないよなー」 「私の妹も一年にいるんだけどさぁ…鷹鳥って子にはあまり近づかないようにって妹に言っとこうと思って」 「俺も一つ下の学年に弟いるから言っとこー」 悠佑「・・・っっ」 涼太「・・・っ」 悠佑と涼太が何か物申さねばと思っていると、すかさず吾郎が口を開いた。 吾郎「先輩」 すると、なな子の噂話をしていた先輩達は一斉に吾郎を見た。 悠佑と涼太も驚いて吾郎を見る。 吾郎「先輩達、さっき鷹ノ爪隠塾に通うとか言ってましたけど…そこの塾で一番評価と人気の高い講師の名前、知ってますか?」 先輩「え、確か… 弘乃丞先生って呼ばれてる人だろ?」 悠佑「弘乃丞…」 吾郎「そう、鷹鳥弘乃丞さん」 先輩「鷹鳥…??」 吾郎「鷹鳥なな子の父上ですよ」 先輩「・・・え…。えぇぇーっっ!!」 悠佑「…っ!!」 涼太「!!」 吾郎「ちなみに…鷹鳥弘乃丞さんは鷹ノ爪隠塾の塾長ですよ」 先輩「え…」 吾郎「無知って愚かですね」 先輩「・・・っっ」 吾郎「あぁ…鷹鳥弘乃丞さんが元暴走族の総長だったってことは、その塾に通ってる人なら当然のように周知していることなので、さっきみたい騒いでると、かえって先輩達が恥かきますよ」 先輩「・・・っ」 吾郎「あと、鷹鳥弘乃丞さんはかなり人気あるお方なので…あまり偏見染みた事言ってると、ファンから総攻撃食らいますから気をつけた方がいいっすよ…先輩」 先輩「……っっ!!」 鷹鳥親子の噂話に花を咲かせていた先輩達の花を、一気に散らした男、松尾吾郎であった…。 悠佑「すげーっ!!なな子の父ちゃん、まじカッケーじゃーん!!」 涼太「ほんと、人って見かけによらないよなー」 吾郎「だな」 悠佑と涼太、吾郎はそう言うと、不敵な笑みを浮かべ先輩達を一瞥すると、先輩達の間を割って堂々と歩いて行った。 「・・・っっ」 噂話の花が枯れた先輩達は、ばつが悪そう俯いた。 悠佑「っつーか、松尾…なな子の父ちゃんの事よく知ってるなッ」 吾郎「まぁ、ずっと友達だからね」 悠佑「ふーん。ずっと…かァ…」 涼太「・・・?」 --- 吾郎と玲花が教室の窓際で仲睦まじく話をしていると、その様子を見たクラスメイト達は口々に囁いた。 「それにしても松尾くんと逸ノ城さんが付き合い出したなんて…意外な組み合わせだよね…」 「逸ノ城も趣味が変わったのか?」 ガタガタガタ… ビューーーー すると突然、開いていた窓から一瞬だけ突風が吹き込んで来た。 「・・凄い風だったね、今」 玲花が髪を整えながら言った。 「いってぇーっ…目に塵入った…。ちょっとこれ持ってて…」 吾郎は片手で両目を覆いながら眼鏡を外すと玲花に手渡した。 するとすかさず、持ち合わせていた目薬を自身のポケットから取り出し素早く挿すと、天井を見上げ目をパチパチさせた。 吾郎は顔を戻すと、素顔のまま笑顔で玲花に言った。 「よし、大丈夫だわ。ごめん、眼鏡ありがとう」 ・・・っっ!!! その場にいたクラスメイト全員が、吾郎の素顔がイケメンであったことに驚愕した。 「・・・っっ…うん…」 玲花は顔を赤くしながら、眼鏡をしていない吾郎の素顔に見惚れていた。 吾郎は眼鏡のレンズを拭いている。 その場にいたクラスの女子達も、吾郎の素顔に見惚れていた。 そんな周りの様子に気づいた玲花は、吾郎にしがみつきながら言った。 「…コホンッ!まぁー、人は見かけに寄らないなんてこと、あるあるだからねぇ」 「・・・っっ」 その場にいたクラスメイト達は吾郎と玲花の二人を羨ましそうに見つめた。 「何だ…おまえ、良い顔してんじゃん…って、まさか…おまえまで伊達眼鏡なんじゃねぇだろうなぁ…」 悠佑がたじろぎながら吾郎を凝視する。 「度付き眼鏡だよッ」 純粋に吾郎の視力は悪かった。 「松尾くんの素顔、ななちゃ子ちゃんの次に驚いたッ」 多満子が笑顔で言う。 「たまちゃんも美人だよ」 涼太が多満子を見つめながら言った。 「・・・っっ」 多満子はどっと顔が真っ赤になり恥ずかしそうに俯いた。 「でしょ?原石だったでしょ」 なな子は涼太に微笑んだ。 「めっちゃ原石だった」 涼太が笑った。 「・・・原石?」 多満子はキョトンとしていた。 「ダイヤモンドの原石だよ、多満子ちゃんは」 なな子はそう言うと、多満子の肩をポンッと叩いた。 「え…」 多満子は驚いたようになな子を見た。 「でもよかったぁ…。松尾くんがたまちゃんと何ともなってなくて…」 涼太が苦笑いしながら言った。 「あ、それ俺も同感だわ…」 悠佑が真面目な顔してなな子を見た。 「そ、それ私も同感!!」 慌てて玲花も言った。 「アハハァッ!私達は同士みたいな感じだったもんね」 多満子は笑った。 「そうだね」 吾郎となな子は笑顔で頷いた。 「そもそも、私と松尾くんってなんか性格が似てるから恋愛なんて意識全くなかった」 なな子はキョトンとしながら言う。 「確かに。何か姉弟(きょうだい)?みたいな感覚かな…。鷹鳥さんって俺の性格そのまんまなんだよね。行動力と成績の差はあと一歩、鷹鳥さんには及ばないけど…」 吾郎は苦笑いしながら言う。 この時の吾郎は、まだ気づいていなかった。 後に社会人になってからの吾郎は論破の達人として、権力ある大人相手との口喧嘩には絶対負けないという才能があることに…。 種類は違えどケンカが強いのもまた、なな子に似ている吾郎なのであった。 「確かにおまえら、何か似てるなって思ったことあったわ…」 悠佑は、なな子と吾郎を交互に見ている。 「そうね…感じが確かにそっくりかも。何かドライな感じが…」 玲花も目を丸くした。 「まぁ、世の中には似たような人が三人いるって言うし…それは性別とか関係ないのかもね」 なな子は吾郎を見ながら言う。 吾郎「じゃあ…あともう一人はどこにいるんだろ?」 なな子「さぁ?」 そんな吾郎となな子の会話に悠佑達は和やかに笑う。 この時のなな子と吾郎は、まだ気づいていなかった。世の中にいるという似た三人の内のもう一人が身近な場所にいるということに…。 なな子「でも、小さい時から知ってるから…似ちゃったのかもね、私たち」 吾郎「あぁ、それはあるね」 悠佑「ん…?小さい時から…?」 玲花「知ってる…?」 涼太「え、どういうこと?」 なな子「あぁ、言ってなかったわね。私と松尾くんは、父親同士が知り合いなのよ。私の父さんが暴走族の総長だった時に、松尾くんのお父さんは副総長だったの」 悠佑「え…」 なな子「ちなみに、母さん同士も親友なのよね」 吾郎「ほんと、夫婦揃って仲良いんだよなァ」 そう、なな子の父親である鷹鳥 弘乃丞と吾郎の父親である 松尾(まつお) 大五郎(だいごろう)は当時、百戦百勝の強さで無敵と恐れられていた暴走族の総長と副総長の仲であった。さらには、吾郎の母である 松尾(まつお) 冨士子(ふじこ)は高校時代生徒会長を務め、当時同じ高校に通っていたなな子の母である椿の大親友なのである。 ちなみに、吾郎の父、大吾郎と母である冨士子もまた、大恋愛の末結ばれた夫婦であった。 「えぇぇぇーっっ!!?」 悠佑と玲花、涼太は驚きの悲鳴を上げた。 多満子はニコニコとしている。 「たまちゃんは…知ってたの?」 涼太は目を丸くさせながら多満子を見る。 「知ってたよ!なな子ちゃんと松尾くんは感じがよく似てて、二人に話してると同じような反応が返ってくるから前に私、二人に言ったことあるんだァ。"なな子ちゃんと松尾くんってもしかして実は双子?それか前世で双子だったんじゃない?"って…(笑)その時に聞いたんだァ」 多満子は満面の笑顔で話す。 「そんな会話あったね」 吾郎となな子が笑った。 「マジかよ…」 悠佑は呆然としながら呟いた。 悠佑と玲花、涼太は目を丸くしてなな子と吾郎を見た。 まさか…なな子の父親だけでなく、吾郎の父親までもが無敵と呼ばれていた暴走族の副総長だと言う事実に驚き呆然としていた。 吾郎「ちなみに、鷹鳥さんの父上がやってる塾の名前って、族の名前から取ったらしいね」 なな子「そうみたいね…(苦笑)」 悠佑「・・・っっ」 涼太「・・・っ」 玲花「族…」 多満子「フフ…(笑)」 悠佑「・・っていうか…だからおまえも俺の事、あんまり毛嫌いして来なかったんか…」 吾郎「ヤンキーなんか何とも思わないよ。それ以上のものを小さい時から見てるし」 悠佑「・・・っっ」 ちなみに…以前四字熟語しりとりで、吾郎が即答する程に四字熟語が得意だったのは、吾郎の父親、大五郎が暴走族の副総長を務めていた時に任されていた四字熟語のスローガン作りによって、松尾家にはたくさんの四字熟語が溢れており、吾郎はそれらの四字熟語と共に育った為である。結局、大五郎が暴走族時代に考え抜いた四字熟語は…鷹鳥弘乃丞の鷹と、松尾大五郎の松を取って編み出した「鷹松無双(たかまつむそう)(造語)」であった…。 玲花「でも…そんなに小さい時からなな子と知り合いだったなんて…なんか妬けちゃう」 玲花がなな子と吾郎をジロリと見た。 「マジでそれッ!すげぇー嫉妬するぞッ、松尾ッ!めちゃめちゃ羨ましいわーッ!」 すかさず悠佑も同意し吾郎をジロリと見た。 悠佑「・・っつーか、じゃあ…松尾はずっとなな子の素顔知ってたってことかよッ!」 吾郎「もちろん」 悠佑「言えよーッ!俺がなな子の事ずっと好きだったの気づいてたんならもっと早く教えてくれよォーッ!」 吾郎「え。どのタイミングで言える時があった?」 悠佑「・・・っ」 なな子と吾郎はお互い顔を見合わせヤレヤレと呆れながら笑った。 なな子「でも松尾くん、小学校入学前から中学卒業まで外国行ってたから毎年、年に2回ぐらいしか会ってなかったよね」 吾郎「まぁね」 「え…。えぇーっ!!」 玲花はさらに初めて知る事実にまたもや驚き慄く。 涼太と悠佑は目を丸くしている。 「俺…こう見えて五カ国語話せるから」 吾郎は涼しげな様子で言う。 「えぇぇぇーっっ!!」 なな子と多満子以外の皆は絶叫した。 「…っっ、ゴクリ…」 この時…玲花は、とんでもない大物を捕まえてしまったのでは…と、さらに吾郎にときめいていた。 涼太「松尾くん…だから英語の成績だけはいつも、ななちゃんに勝ってたのか…」 吾郎「唯一、鷹鳥さんに勝てる教科だからね」 なな子「・・・っっ」 「いやー、人間ってほんと…話してみねぇと分かんねぇーもんだなッ!」 悠佑は目を丸くしながら吾郎を見た。 悠佑はさらに続けた。 「でもよぉ…さっきの穂積の話じゃねぇけど、もし前世があるなら俺はきっと前世でもなな子と恋人だったなッ」 悠佑はそう言うとなな子の肩に手を回した。 「えぇっ?そう?」 なな子はいたずらに笑いながら悠佑を見つめた。 「ぜってぇにそう!間違いねぇッ!違うはずがねぇッ!!」 悠佑が自信満々に言い、周りの笑いを誘った。 「じゃあ、それなら私もだわッ!前世でも吾郎と恋人同士だったはずッ!絶対っ!」 玲花はそう言うと吾郎の腕にしがみついた。 「・・・っっ」 吾郎は顔を赤くさせた。 「類は友を呼ぶ…か…。良い意味で」 涼太がニカッと笑いながら言った。 「確かに…」 なな子達皆ポツリと呟くと、お互い顔を見合わせ言った。 そう言うと、なな子達は笑った。 しばらくすると、なな子が静かに言った。 「類は友を"必然的に" 呼ぶのかもね」 すると周りにいた悠佑達は驚いたようになな子を見た。 「価値観や性格が似てたり、お互いの趣味や考え方を理解し合える私達が今こうして一緒に集まってるのは、きっと特別な何かで結ばれた縁かもしれないわね。知らず知らずのうちに引き寄せ合ってる。それが前世からなのかは分からないけど…。何てったって私達…ハイスペックな世界の者でしょ?」 なな子はそう言うとニッと笑った。 するとその場にいた仲間は皆、笑顔で頷き笑った。
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