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六 手を振り合う
トヨが勤めていた軍の駐屯地は、見渡す限り岩場の広大な土地です。周囲は高い空と岩しかありません。
すぐ近くには、ロシアの国境がありました。
互いの国境線は常に警備の兵隊が守っています。国境を越えたすぐ向こう側には、ロシアの兵隊たちがいました。
話が出来るほど近くではないですが、互いの顔や仕草は見ることが出来ます。
満州側の兵が挨拶のように大きく手を降ると、ロシアの兵隊も大きく手を振り返してきます。それで、互いに面白がって、国境越しに手を振り合ったりしていました。
若い女性のトヨを見ると、警備中のロシア兵がダンスを踊る真似をしてくることもあります。「お嬢さん、私と一緒にダンスを踊りませんか」という誘いのゼスチャーです。もちろんトヨが共に踊ることは出来ませんが。
そんなある日、トヨのいた駐屯地の全員に通達が出されました。
「ロシア兵と仲良くなってはいけない。いざとなったら戦わねばならない相手だ。向こうが手を振っても、振り返さないように」
それ以降、国境越しに手を降り合うのは禁止になったといいます。
「戦争が進むにつれて、国境警備のロシア兵は、子供のような若者と老人ばかりになっていったね」
そう祖母トヨが語っていました。
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