七 職業婦人のプライド

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七 職業婦人のプライド

 従軍タイピスト、職業婦人となったトヨ。  当時は手動式タイピング機を使い、漢字を打ってゆきました。  よく使う言葉は、先に用語や単語を組み合わせて印字を作っておきます。  それをタイプライターにセットして、素早く文書を打つ工夫をしていました。 「軍から支給された印字だけだと少し足りなかったから、いくつか自費で買い足して使ったのよ。私物よ」  祖母トヨは自分が職業婦人だったので、働くことに誇りがあります。  女性が働くことに賛成で、私にも強く勧めていました。 「女性でも仕事を持って働くのはやっぱりいいわよ」  さて、トヨと一緒に働いていた他の女性の従軍タイピスト四名はどんな人だったか聞いてみました。皆、独身で若い女性です。 「他の子達は地方出身でね。垢抜けないし話す言葉には強い訛りがあった。東京から来たのは私だけで、言葉に訛りもない。他の子達よりも私が一番きれいで、私が一番美人だった」  ちなみに「私が一番美人」というのは、祖母トヨが九十歳を越えても、自分で言う自慢です。確かに祖母の若い頃の写真を見ると、目がぱっちりした女性でした。    う、うん、気が強くて気位の高いトヨに、同僚だった他の女性達四人は苦労しただろうな……。  そんなことを思ってしまう、孫の私です。
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