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八 ブロマイド
祖母トヨの若い頃は、目がぱっちりした女性だと書きました。
満州時代の頃のアルバムで見せてもらいました。
その中で一枚だけ、きちんと写真館で撮ったものがあります。
服や髪型もお洒落をして、まるで当時の女優のような、セピアの白黒写真です。
「トヨばあちゃん、この写真はどうしたの?」
私が不思議に思ったら、祖母もアルバムを見ました。
「それは私のブロマイドよ」
「ブロマイド?」
「戦場に行くことになった兵隊から『トヨさん、あなたの写真を下さい、それを持って戦場に行きますから』と頼まれるの。頼まれる数が多いから、写真館に行って撮ったのよ。百枚ほど作って配ったわ」
アルバムに入っていたのは、最後に一枚だけ残ったトヨのブロマイドでした。
トヨがブロマイドを渡した彼らが生きて帰ることは、ほぼなかったと聞きます。
徴兵されたまだ若い青年たち。
家族でもなく恋人でもなかったトヨの写真を持ち、彼らは戦場に向かったと思うと、とても切ないです。
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