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十六 内地への最後の引揚船
トヨは赤子を抱え、他の将校の奥さん二人と港まで逃げました。
港には内地に向かう船があります。これにもし乗れなかったら中国兵やロシア兵に追いつかれ殺されてしまうでしょう。
四名は引揚げ船に乗ることが出来ました。
乗船したばかりでまだ、船は港にあります。
しかし、そのとき一緒に来た将校の奥さんの一人が、船内で腹痛に苦しみはじめました。
「お腹が痛い。痛くてたまらない。船を下りたい」
どうしても船を下りたい、と彼女が言うので、トヨを含む四名はいったん船を下りました。彼女の腹痛が治まるのを待って、もう一度乗る予定でした。
しかし港で彼女の腹痛が治まるのを待っている間に、船が出港してしまったのです。
引揚船に確かにいったんは乗ったのに!
大変なことに、それが内地へゆく最後の引揚船でした。
トヨ達四人は、港に取り残されてしまったのです。
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