十八 日本海を越える

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十八 日本海を越える

 五人の乗った漁船は、一昼夜かけて日本海を進みました。   すでに民間船も米軍の潜水艦からの攻撃を受けて沈んだと聞いています。それでも敵意のない女子供が乗っている船だと分かれば、見過ごしてもらえるかもしれないと、トヨ達は考えました。   「見つかったら女物の服を振るんだ。準備しておこう。ズロースがいい」  そう中国人の男性が言うので、トヨ達は白旗の代わりに、振るための女物の服を準備していました。  あるとき潜水艦がこちらの様子を伺っているのか、海上に潜望鏡が出ているのを見つけました。   「今だ! ズロースを上げろ!」  男性の掛け声に、トヨ達は潜望鏡に向かって、必死にズロースや女物の服を振ります。  すると、スッと潜望鏡が海の下に沈み、しばらくたっても魚雷の攻撃はありません。  潜水艦の監視をやり過ごした船は、日本海を越えて、山口県の下関に着きました。  漁船の中国人男性は、トヨ達を下ろすと、すぐに帰っていったそうです。  彼には、孫の私からも感謝の思いしかありません。
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