二十 生きている

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二十 生きている

 トヨ達が乗るはずだった引揚船は、米軍の潜水艦に爆破されて、海に沈んだそうです。  その訃報により、東京の家族はトヨは亡くなったものと思っていました。  トヨが乳飲み子を抱えて、東京の実家にたどりついたとき。  家族がトヨを見て、驚いた声をあげました。 「生きてる!」  この話はトヨが二十五歳の時だったと言います。  話し終えて、ベットに半身を起こしていた、祖母のトヨは不思議そうにつぶやきました。 「どうして私がこんなことを出来たのかな……」  おそらく当時の祖母は、生きるために無我夢中だったのだと思います。「自分になぜこんなことが出来たのか分からない」と祖母は言います。  多くの幸運、多くの助けによって、祖母トヨは生き延びました。    私は思うのです。日本軍も、ロシア人も、中国人も、米国人も、戦争さえなければ、皆、普通の人間として生きていた。血の通った人間らしさを持っていた。  それを失わせたのは、戦争だろうと感じるのです。  次は別行動をしていた祖父の話、勇の話に戻ります。
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