ばあちゃん、漁船で日本海を渡る

二 戦前の暮らし トヨの父

　そのトヨの父も、彼女が十歳のときに亡くなりました。屋敷に帰宅し、着替えようとしたときに倒れ、あっという間に亡くなったそうです。

　トヨの母は後妻だったので、親族からの反対で遺産は正式には一切もらうことが出来ず、屋敷も出ることになりました。男たちが荒々しくトヨの母の部屋に来て、彼女の持ち物を全て奪ってゆきます。

　トヨの父の持ち物に、金の握りのステッキがありました。トヨの母は握りをステッキから外し、座布団の下に隠すと、自分は座布団の上に座りました。
　周り中の男たちが部屋を荒らし、金目のものを探す中で、トヨの母はそしらぬふりで、座布団の上に座り続けました。

　そして男たちの眼を盗んで、座布団にくるんで金の握りを持ち出しました。その他いくつかの美術品を持って屋敷を出ます。後にそれらは博物館に売って、のちの家族の生活費を得ることが出来たそうです。