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出会い
あれから桜子は、レセプタントの仕事もどんどんおぼえていって、英会話の特技もあって呼ばれる派遣先も増えた。
「桜子さん、すごいね!元々いろんなことができる人だから、やれる人だと思ってたけど、期待以上だわ」
「それもこれも、チーフのおかげです。今はもう毎日が楽しくて仕方ありません。何故もっと早くこういうお仕事をしなかったのかと思います」
「人にしろ仕事にしろ、いろんなことの巡り合わせにはタイミングがあると思うから、きっと今がそのタイミングだったんだよ。これからが楽しみだね」
「はい!楽しみついでに私、一人暮らしを始めることにしました、来週引っ越します」
キラッキラに目を輝かせている桜子。
「一人暮らし?大丈夫なの?」
「大丈夫です、ひまわり食堂の近くのマンションにちょうど空きがあったのでそこです」
「よく、ご両親が承諾してくれたね」
「えぇ、そのマンションならば一人暮らししてもいいと言われました」
「そのマンションなら?」
「はい、お父様所有のマンションなので」
「あー、なるほど、って、ほんとすごいお嬢様なのね」
それにしても人ってこんなに変わるんだなぁと思う。
よく自分の居場所がないと言ってる人がいるけど、居場所は自分で作るものなのかもしれない。
不器用で失敗するかもしれないと思っても、勇気を出して何かを始めないと、いつまでたっても居場所を見つけられない。
「チーフ、今度ひまわり食堂で、お花のアレンジメントもやろうかと思ってるんですよ」
「へぇ、お花?」
「はい、お花を持ってきてくださる方がいましたよね?」
「あー、確か里中さん、趣味で育ててるというお花をよく持ってきてくれるよ」
「先日ひまわり食堂に行った時、無造作に花瓶に活けてあったから、少しアレンジしたらとっても喜んでもらえたんです。あの中学生の女の子もやってみたいと言ったので」
花瓶にざっくり活けてあった花を思い出した。
お母さんはそのまま花瓶に突っ込むから。
「里中さんもいい方ですよね?」
桜子はもう大丈夫だと思った。
新しい人と新しいことを始めようとしている。
もう自分の居場所をちゃんと作れるようになったようだ。
あれから…焼肉店で、桜子と神崎と省吾で会ってから、一度だけ、神崎から電話があった。
『まったく何も言って来なくなったんだけど、桜子さんはどうしてる?』
「とても素敵な出会いがあったようで、今ではとても楽しそうですよ」
『そうか、ならばよかった』
「なんですか?逃がした魚は大きいですか?」
『いやいや、そんなつもりはないんだが、あまりにもあっさりと連絡が途絶えてしまったから』
「それだけ、今が楽しいってことですよ、ご心配なく」
_____素敵な出会いとは、なにも異性との出会いだけではないんですよ、神崎さん
そんなことは言わなかったけど。
_____これからもまた、いい出会いがあるといいなぁ、あのひまわり食堂で
楽しそうな桜子を見ていたら、私もワクワクしてきた。
この先がずっと楽しいことであふれているような予感がする。
それは真っ青に澄み切った空のせいかもしれないと思った。
_____おしまい
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