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水はどのどんと船内に押し入り、全てをなぎ倒していった。
救命用のボートもなく、それでもぼくたちは、強く手を取り合い、決して離さなかった。
濁流が押し寄せる中、彼女が叫んだ。
「お願いよ、ひとりにしないで」
「もちろんさ」
握った手に力を入れ、ぼくはそう答えた。決して、ひとりになどするものか。
ぼくたちは、上へ上へと上がっていった。
そして、船が完全に傾いたとき、ぼくたちは海に投げ出されたが、運よく小さな切れ端の上を捕まえることができた。
ぼくは懸命に彼女を板の上に押し上げた。
水にぬれ、冷え切っていた彼女の手をぼくはうんと強く握った。
「大丈夫、大丈夫だ」
「ええ、大丈夫、大丈夫よ」
ぼくたちはお互いを励ましあいながら、体を寄せた。ぼくも最後の力を振り絞り、板の上へとからだを滑らせた。
すぐ近くから、ぼくたちを探す声がする。
「よかった、ぼくたち助かるんだ」
ぼくはもう一度強く彼女を抱きしめた。彼女のぬくもりが湿った服を通して感じられる。決して離すことなどない、永遠に。
そしてぼくたちは助かった。
それから彼女は、この事故の影響か、寒さにひどくおびえるようになった。
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