1684人が本棚に入れています
本棚に追加
8.終わりよければ!
家に帰って、私たちはまず、澪さんが作ってくれていたご飯を食べた。
そしてそれから、今度は創ちゃんに先にお風呂に入るよう促した。着替えは畳んで置いてあった誰かのものを拝借して。
創ちゃんは『与織子が先に……』なんて言っていたけど、実はほとんど寝ていない、なんて話を聞いて、私は創ちゃんを急かした。
だって本当に、ものすごく眠そうだもの
家に着き、きっと気が緩んだのだろう。ご飯を食べながらぼんやりしている創ちゃんを見ながらそう思っていた。
「与織子。先に悪かったな」
お風呂から上がってきた創ちゃんが、そう言って扉の向こうから顔を覗かせる。
「ううん?それよりもう横になって?」
遠慮気味にドアの前に立つ創ちゃんの元へ行くと、私はその腕を引いて、自分のベッドへ連れて行く。
「いや、やっぱり俺はソファで……」
「ダメ!創ちゃん疲れてるでしょ?今日はちゃんと寝ないと!」
戸惑ったような声が頭の上からするが、私はお構いなしに創ちゃんをベッドに座らせた。私がこの家に越してきたときすでにあったこのベッドは、なぜかダブルサイズ。私一人なら広すぎるけど、創ちゃんならちょっと広いくらいだろう。
創ちゃんはベッドの縁に座ったまま下を向いていて、私はそれを立ったまま見下ろしていた。
「与織子に……一つ話してないことがある」
「……お父さんが言ってた話?」
私がそう返すと、創ちゃんはそのまま頷いた。
「話しは明日でもいいから。寝たほうがいいよ?」
あまりにも疲れている様子の創ちゃんが心配で、私はゆっくり頭を撫でながらそう言う。
「いや……。今、話しておきたい」
創ちゃんは私の手を握り顔を上げる。
捨てられた子犬のような顔で私を見ている創ちゃんに、私はキュンとしてしまう。この湧き上がる感情は、母性本能というものなのだろうか。
「わかったよ。でも、横になってからね?」
それに素直に従い、創ちゃんはベッドに入る。私がそれを見守っていると、横になった創ちゃんは薄い夏用の掛け布団の片側を持ち上げた。
「与織子も……。来て」
今にも寝てしまいそうな顔でそう言われて、私は息を吐いた。
「もう。仕方ないなぁ」
私はそう言って笑うと、創ちゃんの隣に潜り込む。それでもやっぱり、ちょっと恥ずかしいから気持ち離れていたのに、創ちゃんは私を抱き枕のように抱きしめた。
そして、ポツポツと語り出す創ちゃんの穏やかな声に、私は耳を傾けた。
最初のコメントを投稿しよう!