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創ちゃんはまた瞳を開けると、正面にある私の顔をじっと見ながら背中に回っていた腕を持ち上げた。
「ずっと近くで見ていたい。そのためならなんでもするって」
カァッと熱くなった私の頰を、創ちゃんの指がなぞった。
「で、でも創ちゃん、初恋だって自覚したの最近だって……」
「……そのときは、その感情がなんなのか、自分にもよくわからなかった。けど怜さんに会って株の話をする前に、俺は衝動的に口走ってしまったんだ」
「なんて……?」
創ちゃんは、私の顔を優しく撫でながら、薄目を開けて笑う。
「お嬢さんを……くださいって」
「へっ?」
私は思わず目を見開いて、変な声を出してしまう。それを見て創ちゃんは肩を小さく揺らして笑っていた。
「さすがに……怜さんも驚いてたけど、すぐに笑い出して。いいよ、君に託そうって」
「お父さん……。何勝手なこと言ってるのよ……」
「それをいうなら俺も大概だ。与織子の気持ちなんて聞かずにそんなことを言ったんだから」
その通りではある。
創ちゃんと上司と部下にならなかったら、私は創ちゃんとどうなっていただろうか?もしかしたら、違う人と、違う恋をしていた……かも知れない。
ううん?
「私は、どんな形でも……。きっと創ちゃんと出会って、それから……。やっぱり好きになってたと思うよ?」
自分の頰を撫でていた手に自分の手を重ねて、笑顔でそう言う。創ちゃんはそれに驚いたように目を見開いて、それからその目を細めて笑みを浮かべた。
「俺も。同じ職場になっていなくても、与織子を手に入れるために足掻いていたと思う」
そう言うと創ちゃんは体を起こし、私はそれを追うように顔を動かした。
「きっと、終わりよければ全て良し、になってたよね?」
そう言いながら、熱に浮かされたような表情で私を見る創ちゃんの頰に手を当てる。
「まぁ、結婚が終わりじゃないがな。その先もずっと、幸せでいよう」
私の口にした言葉の語源を知っていたのか、創ちゃんはそんなことを言う。シェイクスピアの戯曲が元のこの言葉。大学時代に知り、なかなかに凄い内容だと思った記憶がある。けれど、何がハッピーエンドなのか。それは人によって様々だ。
「……うん」
ゆっくりと創ちゃんの顔が近づいてきて私は目を閉じる。柔らかで、いつもより熱い唇が触れる。私はそれを自然に受け入れて、その首に手を回した。
「……おやすみ。創ちゃん」
しばらくして、力尽きたように眠ってしまったその寝顔に、私はそう言ってキスを落とした。
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