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──10月。大安吉日。爽やかな青空の広がるお昼前。
私たちは笑顔が溢れるチャペルの前にいた。
ゲストがワクワクしながら待ち構えるなか、ゆっくり現れた主役たちに、美しい花びらのシャワーが降り注いだ。
「すごく綺麗……」
「あぁ」
「澪さんが、だよ?」
階段から降りてくるのは、タキシード姿のいっちゃんと、ウエディングドレス姿の澪さん。2人はとても幸せそうにみんなからの祝福を受けている。
「澪ーっ!こっち、お願い!」
「澪さーん。こっちですよ!頼みます!」
そんな声がゲストの女性から上がるのは、ブーケトスが行われるから。澪さんの呼んだゲストは、ほぼバレーボール選手のようだ。
「いい?絶対そこから動かないのよ?ジャンプ禁止!もちろんアタックもね!」
澪さんがそう言って声を上げると、待ち構えているゲストから笑いが起きた。
「じゃ、いくわよ?」
澪さんは、ゲストを見渡し一呼吸置くとブーケを空に投げた。風がちょうど止んだタイミング。それは美しく放物線を描き、あるゲストの腕に吸い込まれていった。
「澪!絶対狙ってたでしょ!」
ゲストはそういいながら、笑顔で受け取った人を囲んでいる。もらったほうは嬉し泣きをしているようだ。
ボール以外も狙えるのは、さすが日本を代表していたセッターと言うべきなのだろうか。そんなことを思いながら私は創ちゃんと、少し離れた場所でその様子を眺めていた。
「与織子も参加したかったのか?」
創ちゃんが私に耳打ちする。
「えっ?いいよ、私は」
だって、私の結婚式はもう決まっている。というより、今日の午後、ここで式を挙げるのは私たちなんだから。
どっちが先に式を挙げるか、で揉めたらしい創ちゃんといっちゃんは、折衷案として同日にしよう、で落ち着いた。そして、いっちゃんたちは午前中、私たちは午後からとなったのだ。
「澪さんが綺麗すぎて、私の見劣りっぷりが凄いだろうなぁ……」
参列する親族はほぼ同じだ。澪さんの美しいドレス姿のあと、平凡な私の姿を披露しなきゃいけないと思うと溜め息がでる。
「何言ってる。お前は世界一可愛い花嫁だ」
いたって真面目な顔で創ちゃんは言う。
「なんか……。無条件に私を可愛いって言う人、また一人増えちゃった」
「だが、その中で一番は俺だろ?」
そう言って創ちゃんは私の頰にキスを落とす。
「うん。もちろんだよ!」
──貧乏……ではなく、大家族な私は、御曹司と……。
今日、偽装じゃない結婚をします!
Fin
2022.1.28
玖羽 望月
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