ネネ

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「秀秋、そなたは家康殿にお味方しなさい。それが家を保ち、身を安んじ、そして天下を安んずる道です。決して豊臣家の為亡き秀吉の為だなどと嗾されて三成などに与してはなりません。この国を平和に導けるのは今や家康殿だけです。もし家康殿が敗れるような事があれば、世は百年続いた乱世に逆戻りしてしまうでしょう。良き良く思案の上、道を誤らぬように。」  慶長五年、天下人豊臣秀吉の死を契機として巻き起こった、当時の筆頭有力大名徳川家康と豊臣家随一の忠臣を称する石田三成の世に名高い関ヶ原の戦いを前に、秀吉の糟糠の妻であるネネは甥の小早川秀秋をそう諭した。 「承りました。」  秀秋は短く一言だけ答えた。そして辞去して行った。  一人残ったネネは黙然と物思いに耽っている様子である。 (夫秀吉の治めた天下が、二人で築いた天下が豊臣家の手から離れるのが、何で私に悲しくないはずがあろうか。)  心知らぬ人は何とも言わば言え、とネネが言ったかどうかは分からないが、気分はそんなところである。
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