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   名を名乗った後、少女は何も言わなかった。ただじっと実緒を見つめている。  気まずい沈黙。  「はじめまして、谷村実緒です」と改めて名乗ったが、少女、いやヒナはなぜまた名乗るのかと言わんばかりに片眉を少し上げて小さくうなずいただけだった。   なにか説明なり移動なりしてくれればいいのに。  実緒はどうしていいかわからなくなって窓の外を眺めるふりをしながらそっとヒナと名乗る少女を観察した。  背が高くすらっとしたスタイル、白い肌、長い黒髪。かなり大人びた雰囲気だが、幼げな丸い頬とぽってりした唇は子供っぽく、どことなくアンバランスな印象を与える少女だった。  20代の大人にも、10代後半の若者にも見える。そのミステリアスな雰囲気も彼女によく似合っていた。  「暑いですね」 いつの間にか頼んでいたらしい飲み物を下を向いてかき混ぜながら、突然ヒナは口を開いた。 「あ、そうですね」 再び沈黙。全く距離感がつかめない。  沈黙が気まずくて声をかけたのかと思ったが、黙って飲み物をかき混ぜているところを見るとそうでもないらしい。つまらなさそうにとがらせた彼女の唇に少しイラついた。  「ほんとに無料なんですか」 「はい。かかる経費は谷村さん持ちですが」  ヒナは、これも経費だとアピールするかの如く手元の飲料をちょっと持ち上げて見せた。そこで初めてヒナが飲んでいるのが店で一番高いトロピカルフラペチーノであることに気づき、実緒は思わずため息をつく。  年齢不明ではあるが高校1年生の実緒よりは年上にみえるのに、遠慮というものを知らないのか。  どうやら少し変わった性格のようだ。  そんな人、嫌われるよ。  心の中でつぶやく。  来なきゃよかった。  後悔の気持ちがどんどん大きくなっていった。
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