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昼
3年前にできた駅前の大きなショッピングモール内のカフェで、谷村実緒はぼんやりと窓の外を眺めていた。
8月10日、真夏日の今日は日差しが痛いほどに照り付けていて、アスファルトが光を反射して白く輝いている。
寒いほどに冷房が効いた薄暗いカフェから、うんざりとした顔をして足早に通り過ぎていく人達を見ていると、まるで自分が現実とは全く違う世界にいて、外の世界をガラス越しに覗いているような錯覚を覚えた。
どこか遠い存在のように思える外の人たちを眺めながら、実緒はまどろむような心地よさに包まれていた。
「谷村実緒さんですか」
どのくらいの時間がたったのだろうか。
急に声を掛けられ、実緒は驚いて顔を上げた。
背の高い少女が無表情でこちらを見ている。
心臓がどくんと高鳴った。背中にじわりと汗がにじんだのは、これは現実なのだ、と実感したからだけではない。今日が8月10日であることを認めざるを得なかったからだ。
8月10日。約束の日。
「はい」
声がうわずったが、少女はそれを気に留める様子もなく実緒の目の前の席に座った。そして、
「はじめまして。ヒナです」
と告げた。
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