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俺の両親は、αとΩの番だ。
男性体の二人が愛し合って、四人、子どもが生まれた。
αなのは末っ子の俺だけで、末っ子なのにαというだけで家を継ぐことになった。
男性体の兄もいるっていうのに、俺でなければならないという。
Ωはαのもとに嫁ぐもの、なんだそうだ。
多少の財産があったって、継がされたところで、ありがたくもなんともない。
それでも逆らいきれず、淡々と敷かれたレールに乗らされて、下りることもかなわずにここまで来た。
番を見つけることも、伴侶を得ることもなく、もうじきに三十路を迎えそうだ。
ぴ、ぴ、ぴ、と、規則的な音を立てて機械が異常のないことを断続的に知らせる。
俺たち子どもがあきれるほどに仲の良かった両親は、今や、一人となった。
番とはこういうものかと見せつけられる。
一人が病に倒れてこの世を去ってから、見る見るうちに弱っていった。
今では機械に生かされているような状態で、本人に気力がない以上、もう、どうしようもないと医者にさじを投げられた。
さっきまで、兄が甥を連れてきていて賑やかだったのに、二人になると急に静けさが気に障る。
ふふ、と思い出したように笑い声がした。
「どうしたの?」
「んー、ああ、さっき『お母さんて呼ぶなっていってるだろ』って、ニコがいってたから」
兄のところは、女性体αと男性体Ωの番。
世間の呼び方と本人の認識が?み合わず、どっちがどっちかよくわからないから名前で呼ばせたいのだと、兄が言っていた。
けれどやはり周囲の思惑とは食い違っているようで、うまくいかないらしい。
それを愚痴っていたのだが、その時の兄の発言を言っているのだろう。
可愛がっていた甥がいてもそれほど反応しなかったのに、くすくすと笑いながら話すのは、昔話。
自分の番がいたころの。
「セールスの電話がきて、オレが受けて『お母さんお願いします』っていわれてさ」
「うん」
「お前が腹ん中にいる時で『オレがお母さんです』っていったら、無反応で電話切られた」
「まあ、ふざけてると思われたんだろうな」
「多分、ね。それでオレがその話したら、あいつがすっげえ怒ってさあ、セールスしてきた先調べ上げて、クレームつけてた」
「はっアホだろ、おやじ」
だよねぇ、と久しぶりに笑い声をあげているけれど、その顔に生気はない。
かさついた肌にやせ細った腕。
番を失って残されたほうは、こんなにも痛々しい。
「でも、すごく嬉しかった」
「そうなのか?」
「自分の番だって。伴侶だって。子どもたちの親はオレたちだって。見た目男同士でさ、Ωが産めるっていったって、珍しい話で変な顔されること多くて、でも、オレが番だって……他の誰にもバカにさせないって……」
だんだんと声が弱ってきたので、話をとめた。
「張り切りすぎて疲れたんじゃないか? もう寝なよ」
「うん」
来客のために起こしてあったベッドの背を倒して、姿勢を変える。
「あのね……幸せだったんだよ」
口元に耳を寄せないと聞こえないほどに細い声で、そう、言った。
「今、オレがこんなだからって、怖がらなくていい。番がいて、お前たちがいて、オレはホントに幸せだったんだ」
だから怖がらずに。
番を見つけて幸せになれ。
本当に幸せだから。
優しい優しい、表情で。
それが、俺の生みの親の遺言になった。
都市伝説のようにある、数少ない男性体のαとΩの夫婦。
俺の両親だった人たちは、離れては生きていけない運命の番だったのだと、今となっては思うんだ。
<END>
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