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繁華街に出て、雑踏を歩いた。
行きつけのバーでも行こうかと思うがマスターに近況を聞かれるのも少しめんどくさい。病院のナースでも呼んで飲もうかとも思うけど、なんかそんな気分にもなれない。それにナースは下手に関わると後が怖い。学生時代の友だちはきっと仕事だ。俺は、当直明けだから早く帰れただけで、基本的に病院に住んでるのかってくらい、いつも皆病院にいる。
いや、当直明けだから、じゃない。重症だった子が死んだから、少し仕事が楽になったってこと。
この感じが、すごく、すごく嫌だ。
ふらふらと人混みを歩く。
人の多さに、イライラして。
ビビリな俺はそんなイライラを表に出すこともできず。涼しげな顔をして歩いている自分にまた、腹が立つ。
ドンと肩がぶつかった。
知らない人。
俺も背は高い方だが相手も大きくて、少しイカつい身体付きの男。
「チッ」と舌打ちが聞こえて、絡まれるのも嫌だしいつもならそのまま立ち去る。けどなぜか、なぜか俺は、その舌打ちの男の方へ振り返った。
なぜだかわからないが、吸い寄せられるように、流れるように視線をその男に向けた。
金髪が目立つ。
真っ黒の服に、グレーのカーディガンを羽織った男。
いや、違う。
俺の視線が向かったのはその男の、隣。
隣にいたのは、あの美人で頑固な男だった。
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