53人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのさぁ、手……離してくれへん?」
「逃げるやろ」
「逃げへんから」
「嘘やん、すぐ消えそう」
「捕まれとるの……痛いねん」
強く力が入っていたのか。
必死で逃げられないように腕を掴んで、ずっと連れて歩いていた。
病院から家に抜ける暗闇の公園を歩きながら、そっと、手を緩めた。
「やっぱ逃げるやろ……」
「どんだけ疑っとんねん」
「信じられる要素がどこにあるん」
「知らんわそんなん……」
静かな口調で、変わらぬやりとり。
埒があかない。
緩めた手で、するすると男の腕をなぞった。
こんなこと、男としたことなんてないけど。
逃げられるよりマシだ。
暑い日に、少しだけ冷たい指先を、キュッと握った。なぜか、ドキドキして、そんな自分の心の音の意味がわからなくて。ジッと前を見て歩いた。
「どんだけ信用ないねん」
「あるわけないやんか」
小さくそう言い合って。
手を繋いで、家に帰った。
最初のコメントを投稿しよう!