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「いってぇぇええっ!!!」
「誰のせいですか!!」
「俺のせいや無いやろ!」
「おまえのせいやろぉぉお! アホかっ!」
膿が溜まってそうな場所に、少しだけメスを入れた。ほんの少し、皮膚を開いただけ。
どんだけ痛みに弱いんだ。
暴れすぎだし、叫びすぎだし。
「麻酔あるって言うたやん!」
「あれは縫合の時ですよ! これは切開排膿! ちょっとしか切っとらんし、麻酔の方が痛いっすよ」
本当はいろんな麻酔の種類もなくはないけれど。
家でやるならまぁいいだろう。麻酔なしでも許されるレベルの、排膿。
ほら、出た。
白い膿が、どろりと出てきた。
「気持ち悪っ」
「アンタのやからね?」
ゆっくりと、排膿して、ガーゼでそれを丁寧に吸い取る。
「あんたさ……」
「蓮」
「は?」
「田中蓮です。蓮」
「蓮……さぁ、医者?」
「はい、まだ新人ですけどね」
「へぇ……」
「アンタは……あー、アオ?」
「うん、アオ……」
「アオ……」
特に言いたいことも聞きたいこともなくて、というか目の前の処置に集中していて、アオ、という名を呟いて、黙った。
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