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私が呼吸を取り戻したのは――「おいで」と彼が凄く優しく、耳元で囁いてくれたから。
息と共に、心臓までどっか飛んでいきそうになったけど。
さて。
ほら、まぁ、うん。
夜に会う。泊まる。
つまり、そういうこと。
……ていうのは、大人になったら誰でもわかるよね。
一線を越えてしまうのだ。
ずっと線を引き続けていた一線を。
でも、それでもいい。
彼となら――
「私、隣にいていいんですか」
「あなたがいい」
手がシャツの中に潜り込む。
私の身体が強張り震える。
それに気づいて、手が離れた。
逞しい顔立ちに、少し影が入った。
「無理しなくていいんですよ。嫌なら嫌でいいんです」
「――っ」
どこまでも優しい。
とても、とても。
本当に、今まで見た男性の中で、誰よりも。
「大丈夫です」
「それじゃダメです」
彼は間髪入れずそう返すと「あー」と唸って顔を片手で覆って、指の隙間から私を見た。その仕草が見たことないだけでなく可愛さもあって胸のキュンっと鳴る音が止まらなかった。
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