特別な土曜日

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 三十分後、泰雄は明美と一緒に近所のコンビニに来ていた。  いざ夕飯の準備をしようとなった時に、美代子がデザートのアイスを買い忘れた、と言ったものだから、泰雄が買いに行こうとしたところ明美もついてきたのだった。その頃には雅哉の滝汗も収まっていたので、きっと今頃美代子の夕飯の支度を手伝っているのだろうと思う。 「あ、母さんたちにアイス何味がいいか聞き忘れたね」 「そうだな。明美は、何味にするの?」 「えー、どうしようかなぁ。迷うなぁ。バニラか、チョコか、キャラメルかなぁ。あー、抹茶もいいなぁ、迷っちゃう」 「……結婚は、迷わなかったの?」 「え?」  明美は、ずらりと並んだアイスの前でうんうん悩んでいた。そんな明美に、泰雄は小さな声で聞いた。 「竹谷くんとの結婚は、どうしようって迷ったりしなかったの?」  明美は少し目を丸くしていたが、しばらくして口を開いた。 「うん、迷わなかったよ。結婚するかどうかも、わたしはずっと決めてなかったし、友達が結婚した時だって、本当にその人と結婚するってどうやって決断できるんだろうって思ってた。でも、雅哉くんと一緒にいると、確信するんだ。この人といる自分は、この人がいない自分より絶対、幸せだろうな、って。そう思えたんだよね。それで、この人もきっと、私と一緒にいた方が幸せなんじゃないかなって。だったら、結婚するのがいいだろう、と思ったの」 「……そうか」 「いい人なんだよ。雅哉。なんとなくわかるでしょ?」 「うん、誠実で実直そうな人だね」  明美は嬉しそうに笑って泰雄の方を見た。 「そう! お父さんにはきっと伝わると思ってた!」 「ああ」 「うん! じゃあ私は、バニラアイスと抹茶アイスを買います」 「ん、二つ買うの?」 「うん、決められないから。まあ、特別な日なので二つでもよしとして、ね! 一つしか食べちゃダメなんて決められていないし!」  泰雄は、得意げにアイスを二つ手にとった明美の、満面の笑みを見て、小さく笑った。  明美は、小さい頃からたくさん成長して変わったけど、変わっていない部分もあった。  アイスの味も選べない子供から、結婚の決断を下せる大人にまでなったのかと思っていたが、違ったようだ。  きっと、一つを選べない、優柔不断な部分は、自己主張をしない性格なのではなくて、欲しいものをちゃんと手に入れようとする、明美の強さの一部だったのだろう。小さい頃からずっと。そしてその欲張りなところは、明美の長所でもあるのだろう。きっとこれからもそうやって、欲張りに、たくさんの刺激や実りに満ちた人生を送っていくのだ。  そして、結婚は人生における大きな決断であるが、きっと明美には決断というより必然だったように思える。雅哉と結婚する道を選ぶ、というよりは、それが幸せへの近道だから、進んで当然、というように。  コンビニからの帰り道、夕日に赤く照らされた明美はとても上機嫌で、それは幸せそうだった。  泰雄もつられて、暖かい気持ちに包まれたので、もう一度明美に伝えた。 「おめでとう、明美」 「……うん、ありがとう、お父さん。これからもよろしくね」 「ああ」
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