3人が本棚に入れています
本棚に追加
カーテンの隙間から、陽の光が差している。泰雄は、陽が明るく空を照らしていても、まだ寝ていることが許される朝が好きだ。
しかし、今日はそうもいかなかった。社用携帯の着信音が、土曜の朝の静かな寝室に鳴り響いている。電話に出ると、部下の焦った声がした。
「部長! 休日に本当に申し訳ないのですが、お取引先の隅田様から先ほどご連絡がありまして……」
予想通りの内容だった。布団から出ると、隣で妻の美代子が唸りながら目を覚ます。
「ちょっと、なに?」
「少し会社に行かなきゃいけなくなったんだ」
「えー? あなた、今日はただの土曜じゃないのよ、分かってる?」
呆れた声を出しつつ、妻はベッドからてきぱきと抜け出してクローゼットへ向かった。シャツとネクタイをぱっと出して、渡してくる。
「分かってるよ。だから、少しだけ手伝ったらすぐ帰ってくる」
「もう、ちゃんとすぐ帰るって最初に言っておくのよ。今日はせっかく明美が……」
「うん。すぐ帰ってくるよ。準備任せちゃうことになって悪いけど、よろしく頼むよ」
「はいはい」
そうこう話しているうちに、簡単な身支度を整えることができた。美代子はいつも、どこかぼんやりしている泰雄のことを、文句を言いつつ甲斐甲斐しく手伝ってくれる。
「じゃあ」
「はい、気をつけて。二時までには帰ってきてね。明美は楽しみにしてるんだから」
「おう、分かってるよ」
最初のコメントを投稿しよう!