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明美が「結婚を近々しようと思っている人がいるから、会って欲しい」と電話をくれたのは、一ヶ月前だった。その時から今日まで、明美が結婚なんて、「明美の結婚相手」だなんて、と美代子と二人でそわそわし続けて来た。あんなに、自分で決めることが苦手だった子が、これから一生共に過ごすであろう結婚相手を決めて自分たちに会いにくるなんて、と。もちろん明美がもう子供ではないことも、ここまで立派な大人になるまでたくさんの決断をしてきていることも知っている。でも。
「でも、結婚だぞ……」
「ん、あなた何か言った?」
「あ、いや」
「はい、じゃあ改めてご挨拶させてください」
泰雄は、リビングに明美と恋人の雅哉と向かい合って座らされている。美代子は隣で微笑ましそうに笑っており、二人は改まった様子で、泰雄を見ていた。
「さっき母さんにはもう言ったけど、私たちは結婚をしようと思っています。私、近々職を変えたいって言ってたと思うけど、そういう人生の転機とか、この雅哉くんと一緒なら、きっと乗り越えられるし、幸せになれると思ったから。もちろん転機じゃなくてもね」
「おう、そりゃ大事だな」
明美の口からすらすら出る言葉に、泰雄はまずそう返すしかなかった。普段こんな親父っぽい話し方はしないのに、場に飲み込まれて少し低い声でそう言ってみた。
次は雅哉が口を開いた。
「自分も、明美さんとなら、二人にとって絶対幸せな人生を送れると思っています。精一杯明美さんのことを幸せにしたいし、明美さんがいれば僕は幸せだし、二人で周りの人を幸せにしていきたいです」
彼はまた滝のように汗をかいていて、ハンカチで一生懸命汗をぬぐいながら話していた。そんな雅哉を、明美は愛おしそうに見ている。頑張れ、私の自慢の恋人よ、信じてるよ、と言わんばかりの眼差しで。
別に、泰雄は端から反対するつもりもなかった。ただ、正直「明美が結婚」というだけで未知数な出来事すぎて、どう受け止めてどう対応したらよいかよく分かっていなかった。「結婚します! 娘さんをください!」なんて言われた日には、なんて返したらいいかずっと悩んでいた。しかし、懸命に話す雅哉と、それを見る明美の姿を見て、これはぜひ結婚したらいいじゃないか、自然と思ったのだった。
「うん、二人ともおめでとう。竹谷くん、明美をよろしくお願いします。これから私と美代子とも仲良くしてください」
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