二番手の結婚

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 高校の同級生十数人と成人式から干支が一周したタイミングで飲み会をすることになった。  クラスの半数ほどしか集まらなかったのはある意味で仕方がないことなのかもしれない。  仕事で遅刻したため一人遅れて入った、居酒屋のお座敷に並ぶ懐かしい顔ぶれは、歳は取っていても昔となんら変わらないように感じられてなんだかホッとする。 「おお、唐沢(からさわ)ぁ、くんのおっせーよ。とりあえず生でいいか?」  すでに出来上がって無駄に大きな声を出しながら呼び出しボタンを押す旧友に、シラフな僕は少し苦笑いを浮かべジャケットを脱ぎながら空いている席へと腰を下ろした。 「健一(けんいち)くん、久しぶり」  隣に座っていた白妙沙奈絵(しろたえさなえ)がそう言って僕の肩に手を置いた。 「ああ、久しぶり」  肩に触れる彼女の手は温かかった。約十年ぶりに会う彼女は三十路を過ぎたことによって可愛らしいという印象を卒業し色っぽく美しい女性という言葉が似合うようになっていた。 「結婚式以来だよね?」  肩から離れた彼女の左手の薬指にはめられた指輪がきらりと光った。 「なんだかんだそうだね。今日は(まさる)きてないの?」  周囲を見渡すように確認してから平静を装うように僕はそう返した。  勝と言うのは僕らの同級で沙奈絵の旦那だ。 「あの人いま出張中だから今回は欠席なの、健一くんは連絡とっているのかと思ってた」 「この歳になってくるとね、お互い忙しいし」  高校の時は僕と沙奈絵と勝はいつも一緒にいた。  僕だけ違う大学に進学してからも勝とは相談にも乗っていたし、それに付随してというわけではないにしろ沙奈絵ともちょくちょく会っていた。  それでも仕事が始まってしまったら疎遠になっていった。  結婚式には出席したが、結局それ以来会っていないのだ。 「なんか寂しいね、それって」  しんみりしない程度に明るい声で彼女はそういって、お酒の入ったグラスを回して氷を鳴らした。 「まあ、この歳になるとマメに連絡を取り合って話すこともないしね。それにしても勝は仕事忙しいんだ?」 「うーん、よくわかんないけど結構忙しいみたい」  興味なさげなその返事が今の二人の関係性を物語っているように感じたが、よくよく考えてみると高校在学中から二人はそんな感じだったと思い出した。  沙奈絵はミスコンで優勝するくらい可愛かったし人気だったから、必然的に彼女と付き合いたいと思う男子は多かった。  それに比べて勝はいい奴だったけど正直モテるタイプでもなんでもなかった。  高校の時に三人一緒にいたのだって、僕が間にいたからというのは間違いないだろうし、僕らは俗に言う三角関係というやつだったのだ。  沙奈絵はどちらかと言うと僕に好意を寄せてくれていると思っていたのは決して自惚れではないと思う。  それでも最終的に沙奈絵が勝を選んだのは彼の執念と言っていいほどの粘り強さによるものだろう。  僕には勝のなりふり構わず行動するようなスマートじゃない生き方はできなかったのだ。  大学を卒業し二人はすぐに結婚したのだが、勝は今も彼女を幸せにするために奔走しているということなんだろう。 「亭主元気に留守がいいってか――」 「え? なに?」  皮肉というわけではないが口からはそんな言葉が漏れていた。  ボソリと呟いた言葉を聞き返す彼女に僕はなんでもないと答えた。  沙奈絵が勝のことを大して好きでないということは多分当人たちが一番分かっているだろう。  そこまでして彼女と結婚した勝の気持ちを想像することはできても理解することはできなかった。  二人の気持ちが不釣り合いな結婚なんて虚しくないのだろうか。  そこに愛のない結婚なんて単なる紙切れ一枚の契約でしかなく、さらに言えば離婚が認められている以上その契約だってあってないようなものでもあるのだ。  そんな危ういものを守ろうと必死な勝が滑稽で憐れに思えた。  頼んでいたビールが届いて、久しぶりの旧友たちと乾杯をしたのだった。
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