門出を飾るスイートピー

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 それまでの丁寧かつ冷たい口調とは一転して、伊藤の口調は新人研修の時のようなフランクになものになる。自主退職の話が切り出されてから無言を貫いていた総務部長も、伊藤に話を振られると、そうそうと鷹揚に頷く。 「退職金割り増しは、サンタさんからのプレゼントだと思ってください」  伊藤と総務部長はサンタ気取りのために、ネクタイをそろえてきたのだろうか。  総務部長の笑えない冗談に強張る表情で口角をあげながら、人間って怖いと思った。いい大人が「言うことを聞かなかったら居場所はない」と暗に告げるのだから、子供社会のいじめだってなくならないだろう。  子供社会は大人社会の縮小だ。子供の世界なら、無視するレベルだろうかと頭の片隅で考える。  当然ながら、伊藤と総務部長のどうでもいい話は半分も耳に入ってこなかった。  サンタさんからのお手紙と称した退職までのスケジュールや手続きをまとめたプリント一枚をもらって、会議室を出る。人気のない長い廊下をのろのろ歩きながら、腕時計を見る。
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