トルコキキョウに託す願い事

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「愛ちゃん、毛並みきれいねー。本当に美人さん」  山咲から半ば逃げてきた蘭は、黒猫の愛ちゃんに話しかける。今はまだ山咲に近づくのは心臓に悪い。知ってか知らずか、黒猫は甘えた声で鳴き、喉をゴロゴロと鳴らす。 「愛ちゃんに蘭さん、取られちゃったっすねー。山咲さんにはまだ懐かないのに、蘭さんにはゴロゴロ言ってるっす」 「開店時間だから、愛を上に連れていく。それとパジャマ姿で外に出ない」 「はーい。本当に、蘭さん取られて面白くないんすね」  黒猫を抱く蘭の耳に、不機嫌な山咲の声とそれをからかうカケルの声が聞こえる。振り返ってみれば、山咲は不貞腐れたような顔をしている。あることを思いついて、蘭は愛ちゃんを抱いたまま山咲の元へ向かう。 「花言葉の答えは永遠の、これです」  これの部分で山咲から見えるように黒猫を抱き上げて見せる。これすなわち黒猫の愛ちゃん、永遠の愛だ。 「シャー!」  山咲に蘭の意図が伝わったかと思うより早く、黒猫が山咲を威嚇する。 「あ、愛ちゃん?」 「山咲さん、嫌われてるっすね」  カケルがため息混じりに呟く。手を伸ばさずとも、目の前にいるだけで威嚇の対象になるようだ。
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