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「愛ちゃんは蘭さんのボディーガードっすね。蘭さんになんかしたら、愛ちゃんの猫パンチくらいそうっすね。愛ちゃん、蘭さんはお仕事っす。お家に帰ってブラッシングするっすよ」
カケルの言葉がわかるのか、黒猫はかわいく鳴いてカケルの腕に納まる。山咲に対する態度とは雲泥の差だ。
「永遠の愛には程遠いっすね。愛ちゃんが蘭さんの愛を手にする方が先かもっす」
カケルは黒猫を抱きかかえると鼻歌交じりに店を出ていく。手を振ってカケルと黒猫を見送った蘭がちらりと山咲を見れば、彼は肩を落としている。まるで人生で初めて敗北を知った人のようだ。目がうつろになっている。
「猫に負けた? そんなバカな……」
「落ち着いてください。ほら、トルコキキョウですよ。希望です」
「……そうですね。愛を手懐ければ希望はある……高級ネコ缶か」
猫を手懐ける方法を山咲が呟いていると、山咲くーんという女性の声が聞こえる。
「聞いてー。うちの旦那、リストラされてん!」
衝撃の告白とともにやってきた女性は、常連の近所のご婦人だ。いつも元気におもしろく話をしていく女性だが、今日は夫のリストラのせいか表情が硬い。
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