門出を飾るスイートピー

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 声が裏返り、必要以上に大きくなる。採用面接に臨む学生だってださないであろう大きな声を出してしまう。立ち上がろうとして足がもつれて、イスごと倒れる。 「い、痛ぁ……」  膝がじんじんし、思わずついた手から腕にかけてしびれが伝わってくる。足にパイプ椅子が絡まっている気配も感じる。 「し……大丈夫ですか?」  ノックされた時の大きな声かイスごと倒れた際の派手な音のせいか。何事かと顔に書いた男性が蘭の姿を見て引いている。  こいつ、一人で何やってんだとでも思っていそうだ。 「大丈夫です。すいません」  イスに絡まった足を抜き、立ち上がって頭を下げてからイスを直す。穴があったら入りたい。恥ずかしさで相手の顔を見ることができない。ぶつけた膝が痛いような気もするけど、恥ずかしさのほうが勝っている。 「座ってから、お話しましょうか」 「す、すいません」  座って落ち着いてから相手を見ると、一人は新人研修でお世話になった総務部の伊藤だとわかる。緊張していた蘭たち新人に、冗談を言って場を和ませてくれた人だ。その後も社内で会えば、気さくに声をかけてくれたり世間話をしたりと何かと気にかけていてくれた。
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